11.10 ステップ8:お互いに意思疎通を図る

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Figure 11.10.1 Communicate! Image: Care2, 2012
図11.10.1 交流しましょう!
画像: Care2, 2012

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オンラインにおける協働学習(セクション4.4参照)のような指導法では、教員と学生の間で質の高い議論を行う必要があります。一方、オンラインでの協働学習だけでなく、全てのオンライン学習において、教員と学生の間での継続的な交流が必要不可欠だとする研究が、かなりの数で報告されています。このような場合、教員の負担をコントロールするために、慎重にコースを管理する必要があります。

11.10.1「教員の存在」という概念

教室環境においては、教員が存在することは当然のことだと考えられます。通常、教員は教室の前にいて、学生の注意を集める存在です。学生にしてみれば教員からは見られないようにしたいかもしれませんが、たとえ大きな講義室であったとしても、そのようなことがいつでも簡単なこととは限りません。教員は教室にいるだけでも十分だと考えられることが多いです。オンライン学習においても、いかに教員の存在を示す工夫をするかについての研究をもとに、教育において教員の存在が持つ重要な意味について知ることができます。

11.10.2 教員の存在と、遠方にいる学習者の孤独

これまで行われてきた研究によれば「教員が存在すると知覚すること」がオンラインで学習する学生の成功や満足度において重要な要素だということが分かっています。(Jonassen et al., 1995; Anderson et al. 2001, Garrison and Cleveland-Innes, 2005; Baker, 2010; Sheridan and Kelly, 2010) 学生にとって、教員は学生がオンラインで行なっている活動をフォローしており、積極的にコースの運営に関わっているということを知る必要があるのです。

この理由は明らかです。オンラインの学生たちは多くの場合、家で学習しており、完全オンラインの場合には、コースで他の学生に会う機会が全くないかもしれません。そのため、馬鹿げた質問に対する冷たい視線、トピックに関する情熱を捧げるかのような教員の熱い講義、ある考え方について時間を割くことができない時の教員による「さりげない」コメント、ある学生による的を射た発言や、良い質問が出た時の学生たちのうなずきのような、教員や学生からの非言語的な手がかりを得ることができないのです。オンラインの学生には廊下で教員にばったり出会って自発的に議論をするといった機会もありません。

しかし熟達した教員であれば、教室同様にオンラインでも学生を引き付ける授業を作り上げることができます。そのためには当然ながら慎重に計画を立ててコースを設計する必要がありますし、教員の負担が大きくなりすぎないようにコントロールする必要があります。

11.10.3 学生への期待を設定する

ブレンド型であろうと完全オンラインであろうと、教員はコースの開始時に、オンラインで学習する学生に期待することを明らかにしておくことが大切です。よく考えてみれば、なぜ同じことを対面授業でやらないのでしょうか。

多くの教育機関ではコンピュータやインターネットを使う際の行動規範のようなものを設定しているはずです。このような文書は冗長でお役所的な難解なことばで書かれていることが多いのですが、スパムやオンラインでの誹謗中傷、いじめ、ハッキングのようなオンラインにおける行動に対する注意を呼びかけています。同じように教員は特定のコースのニーズに関連して、アカデミックな場で行うオンライン学習に要求される一連のルールを設定しておくと良いでしょう。オンラインで有意義な議論を行うための運用基準やルールはセクション4.4で取り上げましたが、その他にも教員の存在を確実なものにするために教員が行えることがいくつかあります。

コースにおける学生への期待を設定するために、最初の週にちょっとしたタスクを行わせても良いでしょう。例えば、LMS のディスカッション・フォーラム機能を利用して、学生に自分の略歴を投稿させ、他の学生の投稿に返信させる、あるいはコースが実際に始まる前に、コースに関連したトピックについて学生自身がどう考えるかのコメントを投稿させるといったことも考えられます。このように最初の週に設定した活動を行わない学生は、コースを修了できないリスクが高いという研究結果があるので、学生に動向には十分に注意しておくことが重要です。教員は最初の週の終わりに、活動を行わなかった学生に電話やメールで連絡し、たとえオンライン学習に慣れている学生であったとしても、きちんと運用基準にしたがって決められたタスクを行なっているかどうかを確認するべきではないでしょうか。教員が学生のやっていること、やってないことを最初から確認しているということを、学生は知ることができます。

コースが異なれば、異なる運用基準が必要かもしれません。例えば数学や科学のコースではディスカッション・フォーラムではなく、コンピュータによって自動採点される多肢選択型の自己評価を重視した方が良いかもしれません。これらの活動が強制なのかそうでないのか、評価されない活動に対して最低どのぐらいの時間をかければ良いのか、そして評価されない活動は、評価される活動とどんな関連があるのか、といったことも明確にしておくべきでしょう。学生はこのような活動をコースの最初の週に行うべきです。そして教員は活動を行わない、あるいは活動に苦労している学生へのフォローを行うべきです。

最後に、教員は自分自身が作成した運用基準に従うべきです。学生へのコメントは否定的なものではなく、有益で建設的なものにしましょう。そして「存在」することによって積極的に議論を促し、必要な時(例えばコメントがトピックから外れたり個人的なものになりすぎたりした時)には議論に参加しましょう。

11.10.4 教育理念とオンライン・コミュニケーション

指導の際に客観主義的な手法を採用している教員であれば、学生が必要なコンテンツに触れるだけではなく、きちんと理解しているかどうかに重点を置くでしょう。そのためには誤解しやすい所や理解しにくい所について、コンテンツを様々な形(例えば文字と動画など)で提供し、教員やコンピュータによるフィードバックが与えられるようにしながら、学生が繰り返し学習できるようにする必要があります。多くの LMS では学生の活動の要約が記録できるので、それを利用しながら個々の学生の進捗状況を追跡することが大切でしょう。一方、構造主義的な手法を採用している教員の場合は、オンラインでの議論に重点を置くことでしょう。

どのような手法であれ、学生たちは授業で扱ういくつかのトピックでの教員の立場について知りたがっています。ですから「一方ではこうだが、他方ではこうである」といった形でコンテンツを客観的に提示することが必要となるでしょう。そのトピックに対する教員自身の見解や取り組みについて明確にすることで、学生の参加意識が高まります。そのための方法にはいろいろありますが、ポッドキャストの利用、議論への介入、方程式の解き方に関する短い動画の利用などが考えられます。このような教育的介入に関しては慎重に判断しなければなりませんが、学生の真剣な取り組みや参加を促すという点においては大きな役割を果たすことができます。

11.10.5 教員がコミュニケーションに利用する媒体の選択肢

教員と学生、あるいは学生同士のコミュニケーションに利用できる媒体には様々なものがありますが、基本的には以下の4つに分類することができます。

  • 対面:オフィス・アワー、時間割で決められた授業、偶然の出会い(廊下でばったり出会う)など
  • 同期的コミュニーション:電話、文字や音声での会議(Blackboard Collaborate など)、テレビ会議など
  • 非同期的コミュニケーション:eメール、ポッドキャスト、動画、LMS 上のディスカッション・フォーラムなど
  • ソーシャル・メディア:ブログ、Wiki、携帯電話での文字・音声によるコミュニケーション、Facebook、Twitter など

私は2つの理由から非同期的コミュニケーションを好んで利用します。学生は働きながら忙しい毎日を送っているので、非同期型での議論や Q & A の方が便利でしょう。非同期型のコミュニケーションであれば、いつでもアクセスすることができます。そして教員である私自身にも便利です。例えば外国で学会などに参加していたとしても、自由な時間があれば私のコースにログインすることができます。また学生に伝えた内容の記録も残っています。LMS を使っているのであれば、パスワードで保護されているので、授業のグループのみに限定してコミュニケーションを行うことができます。

一方、タイトなスケジュールの中でグループ活動の役割や責任を決める、グループ課題の最終原稿を作成するといった難しい決断をしなければならない場合や、学生の知識が足りないために活動を進めることができないといった場合には、非同期型でのコミュニケーションは学生の挫折感を引き起こす恐れがあります。そのような場合には、ブレンド型か完全オンライン型のコースかにもよりますが、対面型あるいはテクノロジーを用いた同期型のコミュニケーションの方が良いでしょう。

完全オンラインのコースでは Blackboard Collaborate をコース開講中に1〜2回使うこともあります。コースの開始時に(あるいは終了時に)顔や声を通して私が実在する人間であるという「存在」を示すことでコミュニティーを意識させます。そして学生に質問や議論を行う機会を提供します。ですが、このような同期型の「講義」はあくまでも付加的なものです。なぜなら録画した形であれば参加できたとしても、その時間には参加できない学生が常にいるからです。

ブレンド型のコースであれば、1~2週目に少人数の対面のグループ単位での集合教育を何度か行います。そうすることで学生は私だけではなく他の学生のことも知ることができ、その後のグループ活動や議論も行うことができるようになるからです。

ブログや eポートフォリオを使えば、学生は各自の学習を記録し学習したことを振り返ることができます。ブログはコースに関連するニュースやイベントに関して教員がコメントをすることができる便利な方法ではありますが、学生のプライベートな生活や会話と、教室内で行うフォーマルなコミュニケーションとは、明確に切り分けておく必要があるでしょう。

11.10.6 オンラインでの議論を管理する

このトピックを扱っている書籍はいくつかあります(Salmon, 2000, Paloff and Pratt, 2007; Harass, 2011など)。また本書でも セクション 4.4 で詳しく取り上げています。オンラインでの議論を管理する際にはいくつかの基本的な指針があります。

  • LMS 上でスレッド型のディスカッション・フォーラムを利用する(いくつかの LMS ではこの機能をオンにする必要があります。):WordPress やその他のコンテンツ管理システムを利用する教員が増えてくるにつれて、LMS 独自の魅力が失われつつありますが、私はディスカッションを異なったトピックごと(それぞれのトピックに1つのフォーラム)に整理できるという点で LMS のディスカッション・フォーラムを好んで利用しています。スレッド型のディスカッションでは、トピックに関して投稿したものに対する学生のコメントが、元の投稿のすぐ横に表示されます。そのため、学生が自分自身で新しい投稿を行なった場合、他の学生がその投稿に反応しやすくなります。このようにして特定のトピックに関連したコメントの「筋道(スレッド)」を追いかけることができます。注意深く選ばれたトピックやその下位トピックには10個以上のスレッド型のコメントがつくことがよくあります。そして教員は一目でどのトピックが「牽引力」を持っているかを知ることができます。その他の方法として、例えばブログのコメントのように時系列でコメントを投稿することもできますが、そうすると議論の筋道をたどることが難しくなってしまいます。また、私はディスカッションのいくつかは学生と私の間だけの「プライベート」なものにしておくことを好んでいます。なぜなら私はディスカッション・フォーラムを利用しながら、誤解が生じそうな分野を見つけ出し、また、批判的思考や明確なコミュニケーションなどのスキルを育成しているからです。

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図11.10.6 スレッド型ディスカッションの例

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  • そこにいること!:つまりあなたが常にオンラインに存在していることを学生に気づかせるようにしようということです。そのためには定期的に学生の議論を観察し、独占してしまわない程度に適切なタイミングで、時折議論に介入しましょう。

オンラインにおける学生との交流の方法についてより詳しい運用基準が必要であれば、Gilly Salmon や Rena Paloff and Keith Pratt、そして Linda Harasim らによる本を読んでみてください。

11.10.7 学生に見られる文化などの違い

今まで教えてきた中で最も面白く刺激的だったコースには、様々な国から留学生が参加していました。たとえ教育機関まで1時間以内で通学できるとしても、学生たちはそれぞれ異なる学習スタイルを持っており、オンライン学習でも異なる取り組み方をしています。そのため、期待される学習成果やディスカッション・フォーラムにおける目標などについて、明確にしておくことが重要です。学生はみな異なる方法で学習します。もし期待される学習成果の一つが批判的思考であったとしても、学生は異なる方法で達成します。コーヒーを飲みながら他の学生と議論をすることを好む学生もいれば、別の視点を探してたくさん読書をする学生もいるでしょう。また主にオンラインのディスカッション・フォーラムで学ぶことを好む学生もいます。オンラインの議論を見守るだけで、直接的な貢献を一切しない学生もいます。もし留学生の言語スキルを上達させたいのであれば、オンラインのディスカッションに参加させ、そこでの貢献を評価するということもできるかもしれません。ですが、私は学生を強制的に参加させるということはしません。トピックを面白く、自然に学生を引き付けるものにするのが私の仕事だと考えているからです。実際のところ、学生が成果を達成している限りにおいては、どのように達成しているかは気にしません。

ここまでいろいろと書いてきましたが、学生の参加を促進したり励ましたりする方法はたくさんあります。かつて中国姓を持つ20~30人の学生がいる大学院のコースで教えたことがあります。学生原簿と学生たちが投稿した略歴から、一部の学生は中国本土から、それより多くの学生は香港から、そして残りの学生はカナダの住所を持っているということに気づきました。カナダの住所を持っている学生の中にも2つの全く異なるグループがありました。最近カナダに移住したばかりの学生もいれば、ある学生の曽祖父は19世紀に最初にカナダにやってきた移民の一人でした。ステレオタイプに頼りすぎるのは危険ですが、「心理的」そして「地理的」に離れれば離れるほど、最初のうちはオンラインでの活動に参加したがらないということに気づきました。それは言語の問題でもあり、同時に文化の問題でもありました。特に中国本土からの学生はなかなかコメントを投稿したがりませんでした。幸いなことに当時中国からの客員研究員がいました。彼女のアドバイスは、中国本土の3人の女子学生を集め、その3人のグループをひとまとまりとしてディスカッションに貢献させた方が良いということでした。そして投稿する前に「適切」なのかどうかをチェックするために私に送るように指示しました。そこで私は受け取ったものにいくつかコメントをして送り返し、学生たちはそれを投稿しました。すると徐々にではありますが、学期末になる頃には個々の学生が自信を持ち、一人でコメントをするようになりました。でもそれは彼女たちにとってはとても大変なプロセスだったと思います。一方で、コースと関係があるかどうかに関わらず、何にでもコメントをするメキシコの学生もいました。ちょうど当時ワールド・カップ・サッカーが行われていたので、そんなことに対しても彼はコメントを書き込んでいました。

大事なことは、学生が異なるとオンライン・ディスカッションにも異なる反応をするということです。そのため教員はこれらの違いを認識し、全員が参加できることを保障するための方策について検討する必要があるでしょう。

11.10.8 最後に

このセクションで扱ったトピックは大きなものであり、1つのセクションだけで適切に扱うのは困難です。しかし学生がオンラインの要素を持ったコースを失敗せずに修了するためには、教員の存在は強調しすぎてもしきれないほど重要だと言えるでしょう。xMOOCs におけるオンライン上の教員の存在の欠如が、コースを修了する学生がほとんどいないことの1つの理由です。

あなたが教員として、学生と交流するための手段は、今や数え切れないほどたくさんあります。しかし、それと同時に自分の負担をきちんとコントロールすることも忘れてはいけません。1年中、毎日教えられるわけではないので、あなたの「存在」が最大限の効果を持つようにオンラインでの伝達手段を設計すると良いでしょう。オンラインで学生と交流することは、教えるという仕事の中で最も面白く、充実感を与えてくれるからです。

アクティビティー 11.10 学生と交流する

  1. どのようにすればオンラインコースにおける教員の存在に関する原理を、大規模の講義に応用できるできるでしょうか。
  2. 最低1週間に1回は教室での授業があるようなブレンド型の授業では、キャンパスでの交流とオンラインでの交流をどのように使い分けますか。そのようにするのはなぜですか。また、そのようにすることは重要ですか。
  3. あなたの専門分野において、学生によるディスカッションはどのくらい重要ですか。それはどのような学習目標を達成するための支援になるでしょうか。ディスカッションを通じて学生が学習目標を達成するために、あなたはどのような手助けができるでしょうか。
  4. 学生と教員の間のやり取りや交流は、教育の中で最もコストがかかるものの1つです。学生と教員の間のディスカッションやその他のコミュニケーション手段を用いた方が良いと思われる学習目標を、さほどコストのかからない他の方法で達成することはできませんか。例えばコンピュータで置き換えることはできないでしょうか。もしできないのであれば、それはなぜですか。

参考文献と課題図書

(これは、このトピックに関する多くの出版物のほんの一例です。)

Anderson, T., Rourke, L., Garrison, R., & Archer, W. (2001). Assessing teaching presence in a computer conferencing context Journal of Asynchronous Learning Networks, Vol. 5, No.2.

Baker, C. (2010) The Impact of Instructor Immediacy and Presence for Online Student Affective Learning, Cognition, and Motivation The Journal of Educators Online Vol. 7, No. 1

Garrison, D. R. & Cleveland-Innes, M. (2005). Facilitating cognitive presence in online learning: Interaction is not enough American Journal of Distance Education, Vol. 19, No. 3

Harasim, L. (2012) Learning Theory and Online Technologies New York/London: Routledge

Jonassen, D., Davidson, M., Collins, M., Campbell, J. and Haag, B. (1995) ‘Constructivism and Computer-mediated Communication in Distance Education’, American Journal of Distance Education, Vol. 9, No. 2, pp 7-26.

Paloff, R. and Pratt, K. (2007) Building Online Learning Communities San Francisco: John Wiley and Co.

Salmon, G. (2000) E-moderating London/New York: Routledge

Sheridan, K. and Kelly, M.  (2010) The Indicators of Instructor Presence that are Important to Students in Online Courses MERLOT Journal of Online Learning and Teaching, Vol. 6, No. 4

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