8.3 使いやすさ

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Figure 8.5.2 Reliability is important! Image: © pixgood.com
図8.3: 信頼性は重要です!
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ほとんどの場合、教育におけるテクノロジー利用は手段であって目的ではありません。ですから学生や教員が、教育用テクノロジーの使い方を学んだり、そのテクノロジーをうまく機能させたりするために、多くの時間をかけなくてもよいことが重要です。もちろん例外はあります。例えばコンピュータ・サイエンスやエンジニアリングなど、テクノロジーそのものが研究分野である場合や、建築におけるコンピュータを使った設計・製図システム、経営学における表計算、あるいは地質学における地理情報システムなど、カリキュラムの一部としてソフトウェアの使い方を学ぶことが重要な場合もあります。ただしほとんどの場合、学習の目的は歴史、数学、生物学などの学問であって、特定の教育用テクノロジーの使い方を学ぶことではないのです。

対面式指導の利点の1つは、例えば100%オンラインのコースを開発する場合と比べて、事前準備の時間が比較的少ないことです。メディアやテクノロジーは、実装のスピードと更新の柔軟性の点で、その能力は様々です。例えば、ブログはビデオよりも開発や配布がはるかに早く簡単にできます。教員は高速で使いやすいテクノロジーを利用する傾向がはるかに大きいでしょうし、学生も同様、学習のために使うテクノロジーにはそのような機能を期待するでしょう。しかし教員や学生が何を「使いやすい」と思うかは、それぞれのデジタル・リテラシー次第で変わってきます。

8.3.1 コンピュータと情報リテラシー

例えば教材の開発や配信のためのソフトウェアの使い方を学ぶのに、学生や教員が多大な時間をかけなければならないとしたら、学習や教育からは横道に逸れてしまうことになります。もちろん必要とされる基本的なリテラシー・スキルの組み合わせはあります。例えば読み書き能力、キーボード、文書作成ソフトの利用、インターネットでの情報検索、Webアプリケーションの利用、そしてますます増えてきているモバイル機器の利用などです。ただし、これらの一般的なスキルは必須要件と見なすこともできます。もし学生がこうしたスキルを学校で十分に身につけてきていない場合、教育機関は学生向けに対し、このようなスキルに関わる予備的なコースを用意することもあります。

教育機関が学生のデジタル・メディアの利用をサポートする方策を持っている場合、教員も学生もずっと楽になるでしょう。例えば、ブリティッシュ・コロンビア大学では、Digital Tattoo プロジェクトによって、学生に様々な面でオンライン学習の準備をさせます。例えば:

  • 学習管理システム、オープンな教育リソース、MOOCs、eポートフォリオなど、学習に利用できる様々なテクノロジーを学生に紹介する。
  • オンライン学習や遠隔学習に何が関わってくるかを説明する。
  • ソーシャル・メディアによって可能になることとリスクを示す。
  • プライバシーを保護する方法についてのアドバイスを与える。
  • インターネット環境やネットワーキング、オンライン検索を最大限に活用する方法を示す。
  • ネットいじめを防ぐ方法を示す。
  • ネット上でプロフェッショナルであり続ける方法を示す。

ご自分の教育機関に似たようなものがない場合は、学生を Digital Tattoo サイトに誘導してもいいでしょう。このサイトは完全にオープンです。

しかし、事前の準備が必要なのは学生だけではありません。教員のあなたにも当てはまります。時にテクノロジーは魅力的すぎることがあります。その構造や仕組みを完全に理解していなくても使い始めることができます。学習管理システムや講義録画システムなどの一般的なテクノロジーの利用法に関して、短時間、たとえほんの1時間もかからないものでも研修を受ければ、大幅な時間の節約ができます。そして偶然見つけたものだけでなく、全ての機能についても潜在的な価値に気づくでしょう。

8.3.2 オリエンテーション

コースのメディアやソフトウェアを選択する際の便利な基準は、「初心者」の学生(これまでに当該ソフトウェアを利用したことがない学生)がログオン後20分以内には勉強していることです。この20分は、なじみがないソフトウェアで重要な機能を少しだけ把握するために、また当該コースのWebサイトがどのように構成され、ページ移動などはどうしたらいいのかを把握するために必要でしょう。これはコンピュータ操作の新しいスキルを身につけるというよりも、むしろオリエンテーション期間と言うべきものです。同期型チャット機能やビデオストリーミングなど、操作方法を覚える時間が必要な可能性があるソフトウェアを新たに導入しなければならない場合、必要になった時点で導入した方がよいでしょう。ただし、学生がそのやり方を学ぶ時間をコース内で確保しておくことが重要です。

8.3.3 インターフェイスの設計

テクノロジーを使いやすくする決定的な要因は、学習者と機械の間でのインターフェイスの設計です。したがって教育プログラムは、というよりもむしろ実際のところ、あらゆるWebサイトはきちんと構造化されていて、学習者は直感的に使え、操作しやすいものであるべきです。

インターフェイスの設計は高度な熟練を要する専門的技能であり、人間がどのように学ぶかについての科学的研究、オペレーティング・ソフトウェアがどのように機能するかについての理解、そしてグラフィック・デザインについての十分な研修の組み合わせに基づいています。これは教育の分野では、定評のある安定したソフトウェアやツールを利用するのが良いと考えられる理由の1つです。このようなソフトウェアやツールは既に分析され、うまく機能することが分かっているからです。

キーボードやマウス、ウインドウの視覚的なユーザー・インターフェイス、プルダウンメニュー、ポップアップでの指示といった、従来の一般的なコンピュータのインターフェイスは、まだ非常に大雑把なものであり、ほとんどの人にとって、情報処理の際の好みと一致しているわけではありません。リテラシー・スキルと視覚的な学習の優位が極端に重視されています。これは失読症や視力障害など、ある種の障害を持つ学生にとって大きな問題となるかもしれません。しかし近年、タッチ・スクリーンや音声による起動が登場したことで、インターフェイスはますます使いやすくなってきています。

一方、既存のコンピュータやモバイル機器のインタフェースを、教育の文脈で使いやすくするためには多大な努力の投入が必要になる場合が多いです。Webでさえ、他のソフトウェア環境と同様に、一般的なコンピュータのインターフェイスに縛られていますし、どんなWebサイトの教育的な可能性も、そのアルゴリズム構造ないし樹状構造による制約を受けています。このことは例えば、ある分野に特有の構造や、一部の学生が好む学習法に、必ずしもぴったり合うとは限らないのです。

高等教育の教員にとって、こうしたインターフェイスによる制限の影響がいくつかあります。

  • 教員が教材作成する時や、学生とのやり取りをする時に、特に学生が直感的に使える教育用ソフトウェアや、その他のテクノロジーを選択することが非常に重要です。
  • 教員が教材を作成する際、教材内の操作や画面のレイアウト、グラフィックに関する問題などを把握している必要があります。音声や動画、グラフィックといった学習を活性化させる要素を加えることは可能ですが、帯域幅にかかる費用が必要になります。このような要素は有用な教育機能を持つ場合にのみ追加されるべきです。なぜなら教材を作成する教員よりも、学習者の方がインターネット・アクセスは遅いのが普通であり、学習者にとって時間がかかる教材配信は、非常にイライラするものだからです。加えてデスクトップやノート・パソコンで見るWebサイトのレイアウトは、モバイル・デバイスと同じサイズや構成に自動的に移行することはありませんし、モバイル・デバイスにはそれぞれ、様々な規格があります。Webベースの教材設計においては、高度かつ特殊なインターフェイス設計のスキルが必要ですから、教育機関がサポートしていないツールやソフトウェアを使いたい場合は特に、専門家の助けを求めることが望ましいでしょう。これは、例えば新しいモバイル・アプリの利用を検討するときなど、特に重要です。
  • また、今後数年間のうちに音声認識技術の開発や人工知能に基づく適応型応答、デバイス制御のための皮膚感覚(手の動きなど)が採用されることで、一般的なコンピュータ・インターフェイスが大きく変化することが予想されます。このような変化はインターネットと同じくらい、教育におけるテクノロジーの利用に重大な影響を与えるかもしれません。

8.3.4 信頼性

テクノロジーの信頼性と堅牢性も重要です。私たちのほとんどは、文書作成ソフトがクラッシュして、それまでの仕事が消えたり、クラウド上での書き物の途中でタイム・アウトすることになったりして、がっかりさせられた経験があるでしょう。教員として最も残念に感じることは、オンラインでアクセスできないとか、コンピュータがクラッシュし続けると連絡してくる学生が多いことです。(もしそのソフトウェアで一つのマシンが固まるなら、おそらく他の全てのマシンでも固まるでしょう!)技術的なサポートは、サービス・コールに対応する技術スタッフに料金を支払うという意味だけでなく、学生や教員の時間の浪費につながるという意味でも、多大なコストがかかる可能性があります。

革新的な教育機関という地位を巡る競争の中、最近の「教育のイノベーション」は教育機関にとって見返りがあるのは確かです。古くてもうまく使われているテクノロジーを維持するための資金よりも、新しいテクノロジー利用のための資金調達が簡単であるということも多々あります。ポッドキャストと学習管理システムの組み合わせは、非常に低コストでありながら非常に効果的な教育手段になりえますが、いくら優れた設計だったとしても決して魅力的とは言えません。たいていは xMOOCs やバーチャル・リアリティなど、はるかに高価で華々しいテクノロジーで資金援助を受けるほうが容易でしょう。

その一方で、新しいテクノロジーの導入が早すぎるとリスクも大きくなります。ソフトウェアが十分にテストされていないため信頼性がないかもしれませんし、あるいはその新しいテクノロジーをサポートしている会社が倒産することもあり得ます。学生はモルモットではありません。信頼できる持続可能なサービスは、十分にテストされていないテクノロジーの華々しさや魅力よりも重要です。新しいアプリやソフトウェアが一般的な利用場面で十分にテストされるまで少なくとも1年間は、それらを教育に採用しないで待つことをお勧めします。そして最新のソフトウェアの更新や新製品を急いで購入せず、バグが解決されるまで待つ方が賢明です。また、一般的に教育機関で使われていない新しいアプリやテクノロジーを使いたいなら、まずは情報支援部局に問い合わせ、セキュリティやプライバシー、教育機関の帯域幅などの問題がないことを確認しましょう。つまり、革新的な技術の最先端ではなく、先端ではあるけれども最初の波のすぐ後ろにいる方が良いということになります。

オンライン学習の特徴の一つとして、よく利用される時間帯が通常の勤務時間外にくる傾向があります。したがって、コース教材は高速アクセスと毎日24時間、確実に動く信頼性の高いサーバー上に配置され、別の建物にある別の独立したサーバー上に自動的にバックアップされていることが非常に重要です。例えばサーバーは緊急用電源などを備えた安全な場所に、24時間の技術サポートと共に設置されるのが理想的です。これはおそらくサーバーを中核的なIT支援部門、またはクラウド上に置くことを意味するでしょう。つまり教材が安全かつ独立しており、確実なバックアップが行われていることが非常に重要だということです。

幸いなことに、サーバーだけでなく、学習管理システムや講義録画システムなど、ほとんどの商用教育ソフトウェア製品は、非常に信頼性が高いものです。オープン・ソースのソフトウェアでも通常は信頼できますが、技術的なミスやセキュリティ侵害のリスクが、ほんの少しだけ高まることがあります。優秀なIT管理者がいるなら技術的な問題に関してあなたが学生から電話を受けることはほとんどないでしょう。最近では教員が直面する主な技術的問題は、学習管理システムのソフトウェアのアップグレードだと思われます。これは多くの場合、コース教材を古いバージョンのソフトウェアから新しいバージョンに移行することを意味します。この作業は、特に新しいバージョンが従来のバージョンと大幅に異なる場合、多大な費用と時間が必要になることがあります。とは言え全体的に見て、信頼性の面では問題ないはずです。

まとめると、使いやすさに必要なのは、専門家が設計した商用またはオープン・ソースのコース・ソフトウェア、コース教材のグラフィック、操作性、画面デザインに対する専門的な支援、サーバーとソフトウェアの管理やメンテナンスに対する強力な技術サポートです。確かに北米では、今やほとんどの教育機関がテクノロジー主体の教育のサポートに特化した IT やその他の支援を用意しています。しかし、そのような専門的なサポートがない場合は、教員としての時間の多くを技術的な問題に費やすことになります。そして率直な見解として、このようなサポートの利用が容易かつ便利でない場合は、サポートが利用できるようになるまではテクノロジー主体の教育に深く関わらない方が賢明でしょう。

8.3.5 検討すべき問題

使いやすさは教育にテクノロジーをうまく活用するための重要な要素の1つです。したがって、検討すべき問題としては以下のものが含まれます。

  1. 検討しているテクノロジーは、学生とあなた自身の両方にとってどの程度、直感的に使いやすいものですか。
  2. そのテクノロジーはどの程度信頼できますか。
  3. そのテクノロジーを維持し、アップグレードすることはどの程度容易ですか。
  4. いま使っている重要なハードウェアやソフトウェアを提供している会社は、数年のうちに廃業することのない安定した会社ですか。それとも新規のベンチャー企業ですか。仮にソフトウェアやサービスを提供する組織が存在しなくなった場合、作成したデジタル教材を確実に残すために、どのような計画が行われていますか。
  5. 技術面でも教材設計の点でも、技術的および専門的なサポートは十分にありますか。
  6. 当該領域はどれくらい速く進化していますか。教材を定期的に更新することはどの程度重要でしょうか。どのようなテクノロジーがサポートするでしょうか。
  7. そのような更新は、どの程度まで他の人に引き継ぐことができますか。そのような更新をあなた自身が行うことはどの程度重要ですか。
  8. 指導の際に新しいテクノロジーを使うことで得られる見返りはどのようなものでしょうか。新しいテクノロジーの利用だけが技術革新ですか。それともテクノロジーによって教え方が変えることもできるのでしょうか。
  9. このテクノロジーを利用するリスクとして、どのようなものがありますか。

ライセンス

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