4.5 コンピテンシー基盤型学習

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e-Commerce business course competencies, Capella University
図4.5.1 eコマースビジネスのコースにおけるコンピテンシー(Capella University)
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4.5.1 コンピテンシー基盤型学習とは

コンピテンシー基盤型学習は学習者がどのようなコンピテンシー(能力・適性)やスキルを身につけたいかを特定するところから始まり、学習者自身のペースで(通常は指導者の協力を仰ぎながら)完全習得できるようにします。学習者は自分たちが必要とするコンピテンシーやスキルのみを学ぶこともあります。これらは「バッジ」などの認証を得ることも増えてきていますが、履修証明や学位などの認定と結びつけることも可能です。

学習者は集団で学ぶより、むしろ個々に、大抵はオンラインで学ぶことが多いです。学習者が既にあるコンピテンシーやスキルを完全習得しており、テストなどの形でそれ以前の学習の評価がなされたのであれば、その範囲を再び学び直すことなく次のコンピテンシーレベルに進むことも可能です。コンピテンシー基盤型の学習は一般的な教室型での学習モデル、すなわち学習者が他の学習者と同じ内容を同じ速度で学ばなければならないモデルとは全く異なるものを目指しています。

実践的あるいは職業上必要となるスキルやコンピテンシーを身につけるという点において、コンピテンシー基盤型学習の価値は明らかですが、より抽象的であったり学問的なスキルを身につけたりする教育の場面でも徐々に使われるようになっており、時には集団で学ぶコースや専攻プログラムにおいてもコンピテンシー基盤型教育が使われるようになっています。

4.5.2 コンピテンシー基盤型学習はどこで使われているか

米国の Western Governors University は4万人近い学生を抱える、コンピテンシー基盤型学習の先駆者です。しかし教育省の支援により、米国では近年ますますコンピテンシー基盤型学習が盛んになってきています。他にコンピテンシー基盤型学習に力を入れているのは Southern New Hampshire University、 成人や雇用者向けに設計された College for AmericaNorthern Arizona University、そして Capella University などです。

コンピテンシー基盤型学習は特に人生経験のある成人学習者で、型通りの教育や研修を受けることなくコンピテンシーやスキルを高めてきた人たちに適しているかもしれません。例えば、学校や大学を中退してしまった後で学びの環境に戻ろうと希望していながらも過去の学びは認めてもらいたいという人たちや、何らかの特別なスキルのみを学習したいと考えている人たちには向いているでしょう。コンピテンシー基盤型学習は大学のプログラムを通じて提供されることもありますが、完全オンラインとしての提供が増えています。なぜなら、このようなプログラムを学びたい学生の多くは既に仕事に就いている、あるいは仕事を探している状態にあるからです。

4.5.3 コンピテンシー基盤型教育の設計

様々な手法がありますが、Western Governor のモデルは多くの重要なステップを示しています。

4.5.3.1 コンピテンシーを定義する

多くのコンピテンシー基盤型プログラムの特徴は、雇用者と教育者との間で共同で行われる、高い次元で達成するにはどのようなコンピテンシーが必要なのかを特定する作業です。この一部は第1章で見てきましたが、問題解決や批判的思考などは、高い次元の例として考えられるかもしれません。コンピテンシー基盤型学習では抽象的で漠然とした目標を、具体的で測定可能なコンピテンシーに分割していくことに挑みます。

例えば、Western Governors University (WGU) ではそれぞれの学位について、大学評議会は高い次元のコンピテンシーの組み合わせを定義し、契約を締結した各分野の専門家によるチームが、特定の能力に関する10領域程度の高次元のコンピテンシーを選び、さらにそれらを30領域程度のコンピテンシーに分解し、これら1つ1つのコンピテンシーが達成できるようなオンラインコースが組まれていきます。それぞれのコンピテンシーは、その修了者が職場で専門家として知っておくべきことや、そのキャリア形成に役立つような内容に基づいて設計されます。学位は30領域のコンピテンシーが全て達成された時に授与されることになります。

学習者や雇用者のニーズに合う、いろいろな意味で少しずつ進んでいき(直前のコンピテンシーに基づいており、順番に学んでいく発展的なコンピテンシーになっている)、首尾一貫する(全てのコンピテンシーを達成することで、ビジネスや職業として求められる知識やスキルが完成する)コンピテンシーを定義することは、おそらくコンピテンシー基盤型教育において最も重要で、最も難しい部分となります。

4.5.3.2 コースや専攻プログラムの設計

WGU では、第三者が作った既存のオンライン・カリキュラムや、出版社との契約に基づいて電子教科書のような素材を利用しながら、自校の専門家チームがコースを作成します。また、無料で利用ができる教育用素材の利用が年々増加してきています。WGU では LMS を利用していませんが、各コースに対して特別にデザインされたポータルサイトを活用しています。電子教科書は追加費用なしで学生に提供される契約が WGU と出版社との間で交わされています。科目群はそれぞれの学習者のために事前に決定されており、選択科目はありません。毎月、新しい学生が入学しており、自分たちのペースでそれぞれのコンピテンシーに向けて学んでいきます。

既にコンピテンシーを習得している学生に対しては、2つの方法で専攻プログラムを短縮しても構わないことになっています。1つは既に関連領域で獲得している適当な分野(一般教育、作文技術など)の単位を振り替えるという方法です。もう1つは準備が整ったと考えるタイミングで試験を受けるという方法です。

4.5.3.3 学習者支援

これも施設によって異なります。WGU では約750名の学習支援者を雇用しています。学習支援者には「学生支援者」と「コース支援者」がいます。学生支援者は、その学習項目に対して何らかの学位(多くの場合は修士号)を有しており、少なくとも2週間に1回、それぞれの学習者のコース学習の進捗管理を行いながら、それぞれの学習者に電話で連絡します。学生支援者は学習者の主な連絡相手となります。1人の学生支援者は約85名の学習者を受け持ちます。それぞれの学習者は最初の日から学習支援者と共に学びを開始し、卒業までその関係を続けます。学習支援者はそれぞれの学習者の進度の決定や学習の支援を行い、困難を感じている時には手を差し伸べるという役割があります。

コース支援者には通常、高度な学位が必要であり、多くの場合は博士号を有しています。コース支援者はそれぞれの学習者が必要な時には、さらに手助けをします。学習テーマにも依存しますが、コース支援者は1人につき約200〜400名の学生を受け持ちます。

それぞれの学習者は学生支援者やコース支援者にいつでも(何度でも)連絡することができます。学習支援者は通常業務日の間は学習者からの連絡に対応することを求められています。学習支援者はフルタイムの勤務ですが、フレックス制であり、通常は自宅からの業務となります。学習支援者は比較的給与が良いのですが、学習支援のための徹底的な訓練を受けています。

4.5.3.4 評価

WGU はレポート、ポートフォリオ、プロジェクト、学生のパフォーマンス観察、そしてその科目にふさわしいコンピュータ採点による課題を、詳細なルーブリックと共に用いています。評価はオンラインで提出され、人の目による確認が必要であれば、認定された評価者(WGU が評価する研修を済ませた専門家)がランダムに割り当てられ、合否判定を行います。もし学生が不合格であった場合、評価者はどの領域でコンピテンシーが不十分であったかのフィードバックを行います。学生は必要であれば課題の再提出を行うこともできます。

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Remote proctoring of exams
図4.5.3 試験の遠隔監督:学生は部屋に設置された2つのカメラによって監督されます

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学生は事前の評価としての形成的評価、および試験監督のもとで行われる総括的評価との両方を受けることになります。WGU ではオンラインでの監督つき試験も増加しており、動画での個人確認のもと、自宅から試験を受けても構わないことにしています。この場合、顔認識の技術によって登録された学生が受験していることを確認できるようにしています。教育や医療の分野では、学生の実技や実践を現場で専門家(教員、看護師など)が評価します。

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Example transcript from Northern Ariziona University
図4.5.4 Northern Arizona Universityにおける成績証明の例
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4.5.4 長所と短所

コンピテンシー基盤型教育の支持者たちは以下のような数々の長所を提示しています。

  • ビシネスや専門性における緊急性のある要求にも合致している。学習者は既に勤務している、職場での昇進がある、あるいは未就労であっても資格が取れ次第、就職できる可能性が高い。
  • 学習者は職場や家庭環境において、自分のペースで学習を進めることができる。
  • 学習者によっては、既習と認定されるものを用いることで修了認定までの期間を短縮できる。
  • 学生は個別の学習支援や、支援者からの手助けを受けることができる。
  • 授業料は手頃な金額であり(WGU では年間6,000ドル)、専攻プログラムは授業料のみで運用することができる。WGU では既存の学習教材や、年々その数が増えている無料の教育用素材を利用しているためである。
  • コンピテンシー基盤型教育は米国連邦政府の融資や学生支援基金にも対応している。

そのため、WGU、University of Southern New Hampshire、Northern Arizona University など、コンピテンシー基盤型を少なくとも一部において利用している大学では年30〜40%の入学者増が見られています。

主な短所としては、学習環境によってはうまく機能しないことがあるという点です。

  • 雇用者側のニーズに重点を置いている。学習者が学びたいと考える、予想できない将来に備えての柔軟性のある内容にはあまり重点が置かれていない。
  • 特定のコンピテンシーを設定するのが困難な、あるいは即座に適応する必要がある技能や知識に関する分野には不向きである。
  • 客観主義的な立場から学習を捉えている。構成主義者にしてみれば、スキルは有しているかいないか(合格か不合格か)で評価するものではなく、幅広く評価するものであり、時間をかけて発展させ続けるものである。
  • ソーシャル・ラーニングの重要性が無視されている。
  • 多くの学生にとって好ましくない学習スタイルになり得る。

4.5.5 最後に

コンピテンシー基盤型学習は学習デザインにおいても比較的新しい取り組みですが、雇用者の間では一般的になってきており、例えばスキルの再習得を求めている成人学習者や、中間管理職に就きたいと考えていて、なおかつスキル目標が比較的手の届くところにあるという成人学習者にとっては適していると言えます。一方、コンピテンシー基盤型学習は全ての学習者に適しているわけではありません。高度な職業、抽象度が高い知識、創造的な問題解決、意思決定、批判的思考が求められるスキルなどの育成においては限界があります。

アクティビティー4.5 コンピテンシー基盤型教育を考える

  1. コンピテンシー基盤型教育を応用する際に、どのような要因が影響してくるでしょうか。この手法を効果的に用いることができるシナリオを思いつきますか。
  2. 学習者が集団ではなく、一人ひとり個別のペースで学んでいくことの長所と短所は何でしょうか。個別での学習では経験できそうにないスキルとしては何があるでしょうか。
  3. コンピテンシー基盤型の学習は、個々の教員が時間をかけて企画していくべきものなのでしょうか。この教育手法を取り入れる際に、組織全体による支援としては何が求められるでしょうか。

さらなる学習として

この箇所を執筆した際には、コンピテンシー基盤型学習に関する文献や研究について、他の教育手法と比べて文献が非常に少ない状態でした。コンピテンシー基盤型学習は近年になって発達してきた分野であり、初期の頃は訓練に重点を置いた手法となっています。このような理由により直近の文献を参照するには限界がありました。この分野についてさらに理解を深めるためには、以下の文献が参考となります。

Book, P. (2014) All Hands on Deck: Ten Lessons from Early Adopters of Competency-based Education Boulder CO: WCET

Cañado, P. and Luisa, M. (eds.) (2013) Competency-based Language Teaching in Higher Education New York: Springer

Garrett, R. and Lurie, H. (2016) Deconstructing CBE: An Assessment of Institutional Activity, Goals and Challenges in Higher Education Boston MA: Ellucian/Eduventures

Rothwell, W. and Graber, J. (2010) Competency-Based Training Basics Alexandria VA: ADST

Weise, M. (2014) Got Skills? Why Online Competency-Based Education Is the Disruptive Innovation for Higher Education EDUCAUSE Review, November 10

The Southern Regional Educational Board in the USA has a comprehensive Competency-based Learning Bibliography

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