3.5 徒弟制:実践によって学ぶ(1)

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Figure 2.6 BMW Group UK Apprentice Recruitment, 2013 Image: © Motoring Insight, 2013
図3.5.1 英国BMWの徒弟制プログラムの様子, 2013年
写真: © Motoring Insight, 2013

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3.5.1 教授法としての徒弟制の重要性

実践によって学ぶという形態は Pratt が提唱する5つの教授アプローチの1つです。 (Pratt & Johnson, 1998)  Bloom らが精神運動スキル (psycho-motor skills) を第3の学習領域としたのは1956年のことでした。実践を通しての学習は、特に運動スキル (motor skills) を教える際に一般的に用いられています。運動スキルの学習の例としては、自転車に乗るための学習や、あるスポーツができるようになるための学習などがあります。しかし高等教育の場においても、実践を通して学習する例はあります。教育実習、研修医、実験室での学習などがそれに当たります。

実際、このような実践的学習の大きな括りの中にはいくつかの異なるアプローチや用語があります。具体的には経験的学習、協同学習、冒険学習、徒弟制などですが、ここでは様々な実践的学習のアプローチを包括的に指す用語として「経験的学習」を使うことにします。

徒弟制とは、特に実践を通じて学生に学ばせることを可能にする方法の1つです。これは職業訓練と結び付けられることが多く、経験を積んだ職人や見習いを終えた職人が手本を示し、見習い工はそれにしたがって作業し、それに対するフィードバックを職人が与えるというものです。一方で、中等後教育に携わる教員に対して、教授法を(少なくとも暗示的に)訓練するためにも徒弟制が非常によく使われています。徒弟制による教育方法は様々な領域で応用が可能なのです。

徒弟制のような仕組みは、大学教育のうちでも、特に大学教員養成のための暗黙的かつ標準的なモデルとして広く使われていますが、まずは他の仕組みによる経験的学習とは区別して論じることにしたいと思います。

3.5.2 徒弟制の重要な特徴

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Figure 3.5.3.2 An apprentice being supervised Image: © BBC, 2014
図 3.5.3.2 監督指導の下で作業を行う徒弟工
Image: © BBC, 2014

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徒弟制は目に見えない現象ではないということを念頭においておくのが良いだろう。伝統的な徒弟学習であれ、認知的な徒弟学習であれ、この学習形態には重要な要素がいくつか含まれている。すなわち徒弟制とは学習に関する1つの捉え方であり、教員や学習者には具体的な役割と方略があり、明確な発達段階があることである。しかし大抵の場合、徒弟制の観点からは、人間は一歩引いたところから物事を学ぶことはできないということを知っておく必要がある。むしろ人間は、信頼に値する動態的で独特な、本物の実践が行われている渦の中に積極的に参加することで学んでいくのだ。

Pratt and Johnson, 1998

Schön (1983) は、徒弟制について「きちんと定義されておらず、問題が生じるということが頻繁に発生し、曖昧だったり、不明確だったり、無秩序だったりするという特徴を持つ」実践の状況でうまく機能すると指摘しています。徒弟制による学習では、実際に何かを行うことについて学ぶこと(アクティブ・ラーニング)だけでなく、どのような文脈で学習成果を応用できるかということへの理解も求められます。さらに、その分野で専門家たちが確立している実践、慣習、価値観を学び、理解し、埋め込むことに関係する社会的、文化的な要素があります。

Pratt and Johnson (1998) は「ある特定の領域の知識を完全に習得している、または特に優れた技能をもつ、あるいはその両方を兼ね備える人」定義される「マスター・プラクティショナー」となる人の特徴として、次のようなものを明らかにしています。

  1. 自身が専門とする分野で豊富な知識があり、その知識を実践上の難しい状況においても応用することができる。
  2. 非常に構造化されており、すぐに使えるスキーマ(認知的な地図)を持っているため、これにより新しい情報を習得しやすい。
  3. 十分に整備された方略のレパートリーを持っており、これにより新しい知識を獲得しやすく、自身のスキーマの統合や整理がしやすく、その知識や技能を様々な文脈に応用することができる。
  4. 実践共同体において、自身の独自性を形成する過程の一部が学習の動機になっている。単に見た目だけでの成果目標の達成や、報酬のために学んでいるのではない。
  5. 暗黙知を以下のような形で示すことが多い。
    • 即興的な行動や判断
    • このような行動や判断ができるようになったことを自覚していない
    • このような行動で明らかになることを説明できない、または困難に感じる

さらに Pratt and Johnson (1998) は、それぞれ異なるものですが、互いに関連がある2つの徒弟制の形態を区別しています。すなわち伝統的な徒弟制と認知的な徒弟制です。伝統的な徒弟制による学習体験は、運動スキルや手工業スキルの養成に基づいていますが、これは教える側と学ぶ側が段階的に手順を学びながら徐々に習得していくことを伴います。

3.5.3 大学における徒弟制

認知的な徒弟制、つまり知的な面での徒弟制のモデルは、伝統的な徒弟制学習とは異なるところがあります。というのも、この学習形態は運動スキルや身体スキルの学習の場合と比べて可視化しにくいからです。Pratt and Johnson (1998) によると、このような状況では教員や学習者が知識や技能を応用するとき、双方が何を考えているのか言葉で述べなくてはなりません。そして知識が作られていく状況を明らかにしなければなりません。知識がどのように構成され、応用されるかは、それがどのような状況で発生しているかが極めて重要です。

Pratt and Johnson (1998) では認知的・知的モデルについて5つの段階を提案しています。 (p. 99)

  1. 教員はモデルを示し、学習者はその心的モデルやスキーマを構築する。
  2. 学習者は教員から支援やフィードバック(足場かけ、コーチング)を受けながら、そのモデルをできるだけ正確に再現する。
  3. 学習者は教員からの支援を少しずつ減らしながら、そのモデルの適用範囲を広げていく。
  4. 学習者はその専門的職業として許容される範囲の中で、自ら判断しながら学習を進める。
  5. 一般化:どのようにすればそのモデルがうまく機能するか、起こりうる他の状況ではどのような修正が必要であるかについて、学習者と教員が議論する。

Pratt and Johnson (1998) では、このような徒弟制のモデルが経験の浅い大学教員にとって、どのように機能するか、具体例を挙げています。 (pp.100-101) また、認知的な徒弟制では討論する場、すなわち以下のような機会が必要であると主張しています。

意思疎通が十分に図れるディスカッションや、単一の視点からではなく、実際の場面から生じた現実の場面に本格的に学習者が入り込む機会があること。このように主体的に関与し、階層的に経験を積み重ねていくことからのみ、初心者は熟練していくのである。

大学における徒弟制モデルの大きな課題は、たいていはそれが体系的には行われていないということです。若手の大学教員、新たに大学教員の職に就いた人が、自身が教わった教授たちを観察するだけで自ずと教え方を身に付けるだろうと考えることは、運を天に任せるようなものなのです。

3.5.4 オンライン学習環境における徒弟制学習

教育の徒弟制モデルは、対面授業でもオンライン授業でも機能するものですが、オンラインの環境があるのであれば、通常は対面との混合型で行うことが最適でしょう。

徒弟制による教育プログラムにおいて、教材をオンライン上に移すようになっている教育機関がありますが、その理由の1つは認知的学習の要素が多くの職業で急速に必要なものとなっているからということです。仕事をするために、数学、電気工学、電子工学に関する高い学術的知識がますます必要になってきているのです。このような徒弟制学習の「アカデミック」な部分は、たいていはオンラインでも対面の場合と同様にうまく扱うことができ、そしてオンラインになることで、見習い期間中の労働者は勤務時間外でも勉強することができます。結果、雇用主にとっても、時間の節約にもなるわけです。

一例として、カナダのバンクーバー・コミュニティ・カレッジには、1セメスター13週で提供している車のボディの修理についての実習コースがあります。そのプログラムは既に就業しているけれどもまだ資格は取れていないという州内の労働者に対して、10週分の授業をオンラインで行います。バンクーバー・コミュニティ・カレッジでは、理論的な部分の学習と、車のボディの修理の手順や実践方法については、多数の映像の視聴によるオンライン学習にしています。受講生は全て、既に熟練職人の監督下で働いているので、映像で見た手順の一部をその監督下で実践することができるというわけです。実習コースの最後の3週では、学習者が実際に大学に出向いて、特定の技能について手ほどきを受けます。試験が行われ、その技能を修得している者については、そのまま仕事に戻ってもらうことになります。こうすることで、その技能を身につける必要性が最も高い受講生の指導に集中できるのです。

このような半遠隔プログラムにおいては、企業と大学の間での協力関係が不可欠であり、これによって大学は、職場の「親方」となる職人との協働ができるようになります。特に職業訓練が著しく不足しているような場合に有効であり、技量不足の労働者を熟達した職人のレベルに引き上げることができます。

3.5.5 長所と短所

徒弟制の教育モデルの主な長所は次のように要約することができます。

  • 教育と学習が複雑かつ非常に多様な状況の中にぴったりとはめ込まれていることから、現実世界の条件に素早く適応して変化させることができる。
  • 専門家にとっては教えることを自身の通常業務の範囲内に組み入れることができるため、時間を有効に利用できる。
  • 学習者に目指すべき明確なモデルや目標を提供することができる。
  • 学習者をその職業における価値観や規範に順応させることができる。

他方、徒弟制のアプローチをとるにあたっては以下のような難しい制約がいくつかあります。それは大学教員を育成する場合に特に当てはまります。

  • 専門知識は非常に多岐にわたる活動を通してゆっくりと積み上げられていくものでもあるため、師匠(教え手)の知識の多くは暗示的なものとなる。
  • このようにして積み上げていった結果、ほとんど分かりきっているスキーマや「深い」知識について、専門家として意識しながら言葉で表現することは、ほとんどの場合、困難である。そして学習者は、専門家になるために必要とされていることが何なのかを推測し、真似する必要性があることが多い。
  • 専門家は実践の様子を観察させるだけで、学習者が知識や技能を自然に習得するであろうと期待する。このため専門家は模範を示すことだけに頼ってしまい、結果的に徒弟制モデルが成功する可能性が高くなるような局面を見過ごしてしまう。
  • 指導する専門家自身も、通常厳しい労働条件の職務の中で高度の専門的知識を使うことに専念しなくてはならないため、当該の職業における初心者のニーズに注意を払う時間がほとんど残されていないことさえある。このような状況の下では1人で指導することができる学習者の数は明らかに限られている。
  • 伝統的な職業訓練の徒弟制プログラムは中退率が非常に高い。例えば、カナダのブリティッシュ・コロンビア州では、正規の通学を中心とする職業訓練型の徒弟制プログラムの入学者のうち、60パーセントを超える学習者がコースを修了できずに退学してしまっている。現場では完全な資格を持つ熟練職人が不足しているが、経験を積んだ職人であっても資格認定を完全に受けられていない者が多く、キャリア・アップの妨げになっており、ひいては経済発展の停滞につながるような状態になっている。
  • 職場環境の変化が速い業種では、仕事の方法を修正したり変更したりする際に、徒弟制モデルでは間に合わない可能性がある。このような職場環境では「親方」の伝統的な価値観や規範が広まっているが、これではもはや労働者が直面する新たな状況に対応しきれないかもしれない。このような徒弟制モデルの限界は、中等後教育の分野を見れば明らかであろう。教育をめぐる伝統的な価値観や規範が、新しいテクノロジーや高等教育の大衆化といった外からの力との対立がますます増えているからである。

それでもやはり徒弟制モデルが徹底的かつ体系的に使われるのであれば、非常に入り組んだ現実世界の状況の中でも、非常に有効な教育のためのモデルとなるでしょう。

アクティビティー3.5 大学教育に徒弟制学習を応用する

  1. 大学教員になるための訓練は徒弟制モデルに大きく依存していると思いますか。どのような点で徒弟制による学習と似ており、どのような点で異なっていますか。どのような点で改善できますか。
  2. 徒弟制の要素のうち、教室の場合と同様にオンラインでもうまく扱うことができるものがあるという見解に賛成しますか。それとも反対しますか。もしあるとすれば、それはどのようなものでしょうか。
  3. 見習いの学生を教えるとして、このセクションでは徒弟制の教育モデルを十分に記述していると思いますか。もしそうでないとすれば、何が欠けていると思いますか。

参考文献

Pratt, D. and Johnson, J. (1998) ‘The Apprenticeship Perspective: Modelling Ways of Being’ in Pratt, D. (ed.) Five Perspectives on Teaching in Adult and Higher Education Malabar FL: Krieger Publishing Company

Schön, D. (1983) The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action New York: Basic Books

 

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