7.3 音声

 

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図7.3.1 画像:©InnerFidelity, 2012
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ある種の機械から発せられる雑音や、日常生活の中で聞こえる低いうなり音のような音には、実際の意味の他にも連想的な意味があります。これは教えられている主な内容と関連があるイメージやアイデアを想起させるためにも利用できます。言い換えれば音声には、ある種の情報を効率よく仲介するために欠かせない場合があります。

Durbridge, 1984

7.3.1 音声:正当な評価を受けていないメディア

口頭でのコミュニケーションには長い歴史があり、今日でも教室では授業で、そして一般的なラジオ番組で使われています。しかしこの節で私が主に注目するのは録音された音声です。それが教育のためのメディアとしてうまく利用された場合、とても強力であることについて議論します。

音声に独特な教育学的特性に関する研究もこれまで多く行われています。英国のオープン大学のコースでは、専用に印刷された教材を補うものとして、メディア素材に入札を行う必要がありました。メディア素材は当初はBBCによって開発されたのですが、制作予算が限られており高額になってきたので、コース製作者チームはそれぞれ割り当てられた BBC のプロデューサーと連携して、どのようにラジオやテレビが学習をサポートするのかを発注明細書に記載する必要がありました。特にコース製作者チームは、テレビとラジオについて、どの機能が独自に教育に貢献しうるのかを明確にするよう求められました。そして、あるコースの予算配分と開発を終えた後で、番組のサンプルがどの程度これらの機能を満たしているのかという点で評価されました。同様に番組に対する学習者の反応も評価されました。のちに制作手法がオーディオカセットとビデオカセットに移った時にも同じ方法が採用されました。

このように独自の役割を特定してから番組の評価を行うというプロセスを取り入れたことで、OUはその後も数年間にわたり、異なるメディアのどのような役割や機能が特に適切であったかを識別することができました (Bates, 1985)。かつての BBC/OU プロデューサーであった Koumi (2006) はこの調査を続けて行い、音声や動画についてさらにいくつかの重要な機能を発見しました。ちょうど時をほぼ同じくして、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の Richard Mayer は、教育におけるマルチメディアの利用に関する研究を独自に行なっていました (Mayer, 2009)。

オーディオ・カセットからソニーのウォークマン、そしてポッドキャストに至るまで、音声技術に関する開発は継続して行われてきましたが、音声の持つ教育学的特徴はこれだけ長い期間を経ても全く変わっていません。

7.3.2 表現力の観点から

音声は単独でも利用できますが、他のメディア、特に文字と組み合わせて使われることがよくあります。まず、音声が単独でできることとしては以下が挙げられます。

  • 分析や練習のための(外国語を含む)話し言葉。
  • 演奏のための音楽、あるいは分析のための音楽。
  • 学習者に対しては学習コースを要約した議論を提供できるかもしれません。
    • コースの他の部分で出てきたポイントを強調。
    • コースの中の他の場所で説明されていない、新たなポイントを紹介。
    • コースの他の部分で提示される内容について、別の視点からの捉え方を提供。
    • コースの他の部分で提示される内容の分析や批評。
    • コースの中で扱われた主な考え方や重要な点を要約。
    • コースの中で扱われた別の議論や見方を新たに支持する、または反対する証拠を提示。
  • 第一線の研究者や専門家へのインタビュー。
  • あるトピックについての様々な見方についての2人以上での議論。
  • 鳥のさえずり、子どものおしゃべり、目撃者の証言、録音された講演(ドラマ、コンサート)などの主要な音源。
  • 一次音源を再生しながら分析する。
  • コース内での概念の関連性や応用について強調する「最新ニュース」。
  • コースに関連する話題を教員が長々と話す。

しかし音声は文字と組み合わせた場合に特に「強力」であることが分かっています。なぜなら学習者にとっては目と耳の両方を同時に使えるからです。音声は以下のそれぞれで特に有益であると考えられてきました。

  • 数式、絵画の複製、グラフ、統計表、さらに岩石の標本など、文字として提示された教材を説明、解説する。

この手法はのちに Salman Khan がさらに発展させています。動画を使いながら音声を重ねて説明するという組み合わせにより、数学記号、公式、答えを導く際の視覚的提示を行うというものです。

7.3.3 スキル開発の観点から

学習者自身が録音された音声を停止したり再生したりできるため、次のような場合には特に便利です。

  • 繰り返しや練習を通して学生に特定の聴覚スキルやテクニックを習得させる。(例:言語の発音、音楽構造の分析、数学的計算)
  • 子どもたちの言語利用や、面接を受けた人々の録音による移民に対する態度など、学習者に音源を分析させる。
  • 学習者の取り組みを以下のような方法で変えることができます。
    • 新しい、あるいは不慣れな視点から教材を提示する。
    • ドラマ仕立てで教材を提示することによって、学習者は異なる視点を持った人々になりきることができます。

7.3.4 教育媒体としての音声の長所と短所

まず、長所の一部を紹介しましょう。

  • 音声やポッドキャストはビデオ・クリップやシミュレーションよりもはるかに簡単に作れます。
  • 音声は動画やシミュレーションよりもはるかに少ない帯域幅で配信できるため、ダウンロードが速くなり、比較的狭い帯域幅でも利用できます。
  • 文字、数学記号、グラフィックなどの他のメディアと簡単に組み合わせることができ、複数の意味を持たせることができ、さらに「統合」が可能です。
  • 学習者の一部は読むことよりも、聴いて学ぶことの方を好むでしょう。
  • 音声と文字を組み合わせることで、読み書き能力を高めたり、識字率の低い学習者を支援できます。
  • 音声を使うことで、文字とは異なる多様性や他の観点を提供し、学習者にとって気分転換にもなる「小休止」を与えることができ、興味を維持させることができます。
  • Nicora Durbridge のオープン大学での研究では、音声は動画や文字と比較した場合、教員との間に個人的な「近さ」を感じさせる、より親しみを覚えるようなメディアであるとのことです。

特に、柔軟性と学習者側にコントロールする「権利」が加わることにより、学習者はしばしば教室でのライブ講義よりも、予め用意された録音と文字教材(スライド付きのWebサイトなど)の組み合わせの方が効率よく学習できます。

もちろん音声による学習コースには短所もあります。

  • 聴覚障害のある人にとっては、音声による学習は困難です。
  • 録音は教員にとって余計な仕事になります。
  • 音声は文字やグラフィックなど他のメディアと組み合わせて利用するのが最適でしょう。このようにすることで教育のデザインを複雑にすることができます。
  • 音声を録音するには、最低限の技術レベルが必要です。
  • 話し言葉は書き言葉に比べ、正確ではないことがあります。

Khan Academy のように、現在では動画と音声を図形などと組み合わせることが増えています。しかし学習者が予め用意された教科書を使って学習している場合など、動画よりも音声だけの方が良い場合が多いです。

では、音声について尋ねてみましょう。

アクティビティー7.3 音声に独特な教育的特徴を見極める

1. あなたが教えているコースの中から1つ選んでみましょう。このコースでは音声について、どんな重要な表現的機能があるでしょうか。

2. 本書の1.2節に記載されているスキルを見てみましょう。他のメディアではなく音声を使うことで最もよく開発されるスキルはどれでしょうか。音声中心で教えるにはどうしたらよいでしょうか。

3. どのような条件の下でなら学習者が録音された音声によって評価されるのが適切でしょうか。どのような評価条件でこれを行うことができるでしょうか。

4. 異なるメディア間の冗長性や重複はどの程度までなら良いことだと考えますか。同じ話題を異なるメディアで伝える際の短所は何でしょうか。

5. 音声だけが持つ教育的特徴は他にもあるでしょうか。

参考資料と詳細資料

Bates, A. (1985) Broadcasting in Education: An Evaluation London: Constables (out of print – try a good library)

Bates, A. (2005) Technology, e-Learning and Distance Education London/New York: Routledge

Durbridge, N. (1982) Audio-cassettes in Higher Education Milton Keynes: The Open University (mimeo)

Durbridge, N. (1984) Audio-cassettes, in Bates, A. (ed.) The Role of Technology in Distance Education London/New York: Croom Hill/St Martin’s Press

EDUCAUSE Learning Initiative (2005) Seven things you should know about… podcasting Boulder CO: EDUCAUSE, June

Koumi, J. (2006). Designing video and multimedia for open and flexible learning. London: Routledge.

Mayer, R. E. (2009). Multimedia learning (2nd ed). New York: Cambridge University Press.

Postlethwaite, S. N. (1969) The Audio-Tutorial Approach to Learning Minneapolis: Burgess Publishing Company

Salmon, G. and Edirisingha, P. (2008) Podcasting for Learning in Universities Milton Keynes: Open University Press

Wright, S. and Haines, R, (1981) Audio-tapes for Teaching Science Teaching at a Distance, Vol. 20 (Open University journal now out of print).

Note: Although some of the Open University publications are not available online, hard copies/pdf files should be available from The Open University International Centre for Distance Learning, which is now part of the Open University Library.

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