A.3 学習者の特性

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Figure 5.3 Learner characteristics
図A.3 学習者の特性は何から構成されるか
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おそらく、学習者の特性の変化はデジタル時代における教育の変化に最も影響を与えているでしょう。

A.3.1 多様性の向上

セクション1.6で述べたように、カナダなどの先進国の公的な中等後教育の機関は、少数のエリートだけのための組織のままでいるのではなく、社会全体がそうなっているのと同じように、社会経済的多様性や文化的多様性を体現することが求められています。経済発展が教育の水準と密接に関連している時代において、現在の目標は、最も優秀な学生のニーズだけに焦点を合わせるのではなく、できるだけ多くの学生が、要求される水準に到達できるように支援することです。これは非常に多様なレベルの能力や事前知識を持つ、非常に幅広い範囲の学生が全員成功するように支援する方法を見つけることを表します。1つのサイズでは誰にでも合うわけではありません。ますます多様化する学生たちに対処することは、デジタル時代、とりわけ中等後教育のレベルで直面している全ての課題の中で、おそらく最も大きい課題であると言えます。主に専攻領域だけの専門家である教員には、その準備が十分にできていません。

優れた設計とテクノロジーの適切な利用を組み合わせることで、学習の個別化が非常に容易になります。例えば、それぞれの学生が異なるスピードで学習したり、学生の特定の興味やニーズに学習を集中できるようにしたりすることで、多様な学生の積極的な取り組みや動機づけにつながります。しかし、最初の、そしておそらく最も重要なステップは、教員が自身の学生について知ること、そして特にデジタル時代における教育と学習の設計のために最も重要である、学生と彼らの多様性に関する幅広い情報を認識することです。教育の設計という観点から、重要であると考えられるいくつかの特性を列挙してみましょう。

A.3.2 仕事と家庭の状況

仕事と家庭を教育や学習の設計において重要な検討事項であるとする理由は2つあります。勉強しながら働いている学生は増えており(カナダでは中等後教育の学習者の半分が週平均して16時間の労働に従事しています。(Marshall:2010) 学生の年齢の幅は拡大しており、平均年齢は徐々に上がっています。ブリティッシュ・コロンビア大学では、学部生の平均年齢は20歳ですが、全学生の3分の1以上は24歳以上です。 2018年の大学院生の年齢の中央値は31歳でした。(UBCバンクーバー・ファクト・シート、2018 年)。

少なくとも北米では、学生の平均年齢が上がる理由がいくつかあります。

  • 学生の卒業までの時間が長くなっているため。(仕事をしながらの場合、勉強の負荷を少なくする傾向があるため。)
  • より多くの学生が大学院に進学しているため。
  • 主に経済的な理由から、卒業後、より多くの学生が追加のコースや専攻プログラムに戻ってきているため。(生涯学習者)

パートタイムまたはフルタイムで雇用されている学生、または家族をもつ学生は、特に家庭、職場、大学間での長い通勤を避けるために、学業面での高い柔軟性を一層必要としています。これらの学生は仕事や家庭生活といった状況に合わせやすいハイブリッド型または完全オンラインのコースで、細分化された証明書または専攻プログラムを求めています。

A.3.3 学習者の目標

学生のやる気や、コースや専攻プログラムから何を得るのを期待しているかを理解することも、コースや専攻プログラムの設計に影響を与えるはずです。学校や大学での学習では、最初のうちは学年や資格などの外発的な理由によって学習しはじめた学生であっても、次第に科目自体に興味をもたせ、動機づけて行くことがしばしば必要になります。高等教育を既に卒業しており、良い仕事についている学生は、あらかじめ決められた一連のコースを受講するのではなく、既存のコースの特定の分野のコンテンツのみを必要とする場合があります。(例えば、オンデマンド型のオンライン配信等)したがって、学習者がなぜあなたのコースや専攻プログラムを受講するのか、そしてそこから何を得ることを望んでいるのかについて理解することが重要です。

A.3.4 事前知識やスキル

これからの学習では、事前知識を持っている、あるいは一定のレベルで物事を行う能力のある学生が主な対象となります。教員は Vygotsky (1978) が最近接発達領域と呼んだ、学習者が助けを借りずにできることと、彼らが助けを借りてできることの差分を埋めることを目指します。教育内容の難易度が学習者の能力、事前知識やスキルをはるかに超えている場合、学習は起きません。

しかし、専攻プログラム内の学生が多様であればあるほど、彼らが持っている可能性が高い知識やスキルのレベルも多様になります。実際、生涯学習者や、外国の資格では認められないために科目を繰り返し学習する新しい移民は、他の学生の学習経験を豊かにするために活用できる専門性や高度な知識を持っている可能性があります。同時に、学生の中には、同じコースの他の学生と同レベルの基本的知識を持っていない者もいるかもしれないのです。このような状況では、幅広い経験と知識を持つ学生にも対応できるように、十分な柔軟性を学習経験を盛り込むことが重要です。

A.3.5 デジタル・ネイティブ

今日のほとんどの学生は、携帯電話やタブレット、Facebook、Twitter、ブログ、Wiki などのソーシャル・メディアなどのデジタル技術に囲まれて成長しています。Prensky (2010) や Tapscott (2008) は、学生はそのような技術を使うことに前の世代より熟練しているだけでなく、彼らは考え方自体が異なる(Tapscott, 2008)と主張します。

ただし、ソーシャル・メディアや新しいテクノロジーの利用には大きな違いが学生間にもあり、その利用は主に社会的・個人的な必要性によって決まり、デジタル技術の利用が自然に教育的な利用につながるわけではないことを理解しておくことは特に重要です。教員がうまく利用した場合で、デジタル・メディアの利用が学生たちの学習に直接的に役立つことを理解できた場合には、新しいテクノロジーやソーシャル・メディアを利用するようになります。これを実現するには、教員側に慎重な設計が必要です。(デジタル・ネイティブの問題の詳細については、セクション8.2を参照してください。

A.3.6 結論

職場や家庭の状況、学習者の目標、学生の過去の知識やスキル(デジタル・メディアに対する能力を含む)は、授業の設計に影響を与える重要な要素の一部です。教員にとって、文脈次第では学習スタイル、性差、文化的背景などの他の学習者の特性が、より重要になる場合があります。文脈によらず、よい教授設計のためには、教える対象となる学習者に関する良質な情報を必要とします。そして良い設計をすることが、とりわけ私たちの学生の多様性の増加に対処するためには必要です。

アクティビティーA.3 あなたの学生は誰ですか

  1. あなたが教えている学生たちをどのように特徴付けますか。アルバイトをしている学生ですか。高校を卒業したてのフルタイムの学生ですか。それともフルタイムで働いている学生ですか。あなたが教えるクラスではこれら3つのグループの中ではどれが代表的ですか。あなたはこの分析をするのに必要な情報を持っていますか。
  2. ソーシャル・メディアの影響で、最近の学生は違う考え方や勉強をしていると思いますか。それは彼らの勉強にどのように影響するでしょうか。このことに何らかの形で対応する必要があると思いますか。
  3. あなたの学生の中には、事前知識や言語能力の違いはありますか。このことはあなたが教える方法にどのように影響するでしょうか。

これらの質問に答える前に、 セクション8.2セクション9.3 を読んでおくとよいでしょう。

参考文献

Marshall, K. (2010) Employment patterns of post-secondary students, Statistics Canada Catalogue no. 75-001-X

Prensky, M. (2001) ‘Digital natives, Digital Immigrants’ On the Horizon Vol. 9, No. 5

Tapscott, D. (2008) Grown Up Digital New York: McGraw Hill

Vygotsky, L. (1978) Mind in Society: Development of Higher Psychological Processes Cambridge MA: Harvard University Press

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デジタル時代の教育 by Anthony William (Tony) Bates is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 4.0 International License, except where otherwise noted.

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