6.4 放送か、コミュニケーション・メディアか

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Figure 8.6
図6.4 教員は薄い色で示されています。放送は一人から多数ですが、コミュニケーション・メディアは多数と多数がお互いにつながっています。

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6.4.1 主なメディアの特徴

教育に対して有効に作用するそれぞれのメディアやテクノロジーの特性やアフォーダンスを正しく理解することで、それぞれのメディアやテクノロジーの長所と短所を明確にすることができます。そして、テクノロジーにどのような共通した特徴があるのか、あるいは違った特徴があるのかを知ることができます。

見ておくべき特徴は幅広く様々ですが、ここでは特に教育にとって重要な3つの観点に注目してみましょう。

  • 放送(一方向)か、それともコミュニケーション・メディア(双方向)か。
  • ライブ(一時的)なものか録音(永続的)なものかということも含み、同期的な技術であるか、それとも非同期的な技術であるか。
  • 単一のメディアか、それともリッチ・メディアか。

これらの特徴を別々のものとしてではなく多面的な状態として見ていきます。以降ではメディアやテクノロジーが設計された、あるいは使われた形態に応じて、多面体上での異なる点に相当するものとして考えていきます。

6.4.2 放送か、それともコミュニケーション・メディアか。

大きく構造的に捉えるならば、「放送」メディア、すなわち主に一対多であり一方向であるメディアか、主に多対多なメディア、つまり双方向または複数につながる「コミュニケーション型」であるメディアかで区別できます。コミュニケーション型のメディアには、複数の利用者の間で通信の「権利」が均等に与えられるようなものも含まれます。

6.4.2.1 放送メディアとテクノロジー

例えばテレビ、ラジオ、印刷教材は、主に放送型、あるいは一方向でのメディアです。利用者あるいは「受信者」は、「受信」した内容を別の内容に解釈したり、意図的に無視することはあったとしても「メッセージ」を変えることができないからです。ここでは動画を配信する技術(地上波放送、衛星放送、ケーブルテレビ、DVD、インターネットなど)については重要ではないことに注意しておく必要があります。いずれにせよ「放送」であり、一方向のメディアであることには変わりありません。インターネット技術の中にももともと一方向のものがあります。例えば、研究機関のWebサイトは主に一方向の情報伝達技術を利用しています。

放送メディアや放送テクノロジーの1つの利点は、全ての学習者に確実に同じ内容の学習教材が届けられることが保証されていることにあります。これは教員が十分な資格を持っていない、あるいは教員の質がまちまちな国では特に重要なことです。また一方向の放送メディアでは、伝達内容の品質を確実に保ちながら、配信組織が内容制御や情報統制をすることができます。放送メディアや放送テクノロジーは「客観的」な教育と学習が良いと考える人に支持される傾向があります。なぜなら「正しい」知識を、教育を受ける人全員に伝えることができるからです。一つの欠点は、教員と学習者の間でのやり取りを提供しようとするならば、追加の方法が必要だということです。

6.4.2.2 コミュニケーション・メディアとテクノロジー

電話、テレビ会議、電子メール、オンライン・ディスカッション・フォーラム、ほとんどのソーシャル・メディアやインターネットはコミュニケーション・メディアやテクノロジーの例であり、これらの全てで利用者はコミュニケーションやお互いの通信ができます。また理論的には、少なくとも全ての利用者に対して技術的に平等な「権力」が与えられています。コミュニケーション・メディアの教育的意義は、教員と学習者の間でのやり取りを可能にするということです。そしておそらくもっと大きな意義は、たとえ参加者同士が離れた場所にいたとしても、ある学習者は他の学習者とのやり取りが可能であるということでしょう。

6.4.2.3 どっちがどっち?

この分類については、もっとはっきり述べなければならない曖昧なもので、必ずしも厳密なものではありません。ますますテクノロジーは複雑なものになりつつあり、幅広い機能を提供できるようになっています。特にインターネットは単一のメディアとは言い切れないものであり、むしろこれまでとは異なる、そしてしばしば逆の特徴を持つ様々なメディアやテクノロジーが統合されているものです。さらには、ほとんどの技術はある程度柔軟なものであり、別の方法でも利用できます。しかしテクノロジーを広げすぎると、例えば放送メディアを使って xMOOC のように一層相互的なやり取りをできるようにしようとするならば、往々にして歪みが生じるものです。私はこの分類は有効であると感じますが、一方でそれぞれのメディアや技術の特性とはこういうものであると教義のように考える立場も分からなくはありません。つまり私はそれぞれの事例を別々に捉えているのです。

たとえ学習管理システム (LMS) のディスカッション・フォーラムのような機能によって双方向でのコミュニケーションができるとしても、私は LMS の主たる分類は放送メディアや一方向の技術であると捉えています。また、LMS の通信機能にディスカッション・フォーラムのような機能を追加する場合、主にプラグインとしてそこにたまたま埋め込まれているものは、格好いい見た目のデータベースに過ぎないということを主張されても構いません。実際、教育で必要な機能を全て盛り込みたいと考えるのであれば、様々な技術を組み合わせなければならないということに気づくことでしょう。そしてコストは増大し、複雑なシステムにならざるを得ません。

Webサイトはその設計の度合いに応じて、この範囲内のどこかに置かれます。例えば、航空会社のWebサイトでは、その会社の完全な管理の下、フライトを見つけたり、予約したり、座席指定したりすることができるという相互性を持ち合わせています。これはコミュニケーションとは言えませんし、Webサイトを書き換えることもできませんが、少なくとも何らかの相互性があり、ある程度までは個人的な好みに編集することができます。しかしフライト選択画面で表示されている文言を変更することはできません。だからこそ私は特徴について話したいのです。利用者とやり取りできる航空会社のWebサイトは放送メディアの数よりも少ないです。しかしこれとて「純粋な」コミュニケーションメディアではありません。航空会社が自身のWebサイトを制御しているため、顧客と航空会社ができることは同等ではありません。

ここで強調しておきたいことは、例えば YouTube やブログのように、コミュニケーション・メディアよりもむしろ放送メディア的と考えられる技術が多いものがある一方、例えば Facebook ページ上での個人的な話題のように、主にコミュニケーション・メディアでありながら、放送メディアの技術を一部利用しているというなソーシャル・メディアもあるということです。Wiki は明らかに「コミュニケーション」メディアと言えるでしょう。他のテクノロジーを導入せずに大きく変えることは難しいという特徴がある点は否めませんが、テクノロジーに対する教員、教材作成者、利用者の意図的な介入がテクノロジーのどこかの側面に影響を与えるかもしれないことは改めて強調されなければなりません。

放送メディアやコミュニケーション・メディアを使う際、教員の役割も全く違ったものになる傾向があります。放送メディアでは中心的な役割は教員にあり、教員自身が内容を選択して配信することが多いです。xMOOCs は優れた例です。しかしコミュニケーション・メディアでは、オンライン協働学習やオンライン・セミナーでよくあるように、教員の役割は依然として中心的なものですが、実践コミュニティ、すなわち cMOOCs のように、参加者全員、あるいはその多くの協力によって作られる学習の場面では、教員は中心的な立場ではないということもあるでしょう。

このように「権力」がどの側面にあるかは重要だと考えられます。ところで利用者や学習者が特定のメディアやテクノロジーを操る場面では、どんな「権力」があるでしょうか。歴史的に捉えてみると近年は学習者に大きな「権力」が移っていくような流れがあるように感じられます。より大きなコミュニケーション・メディアへの動き、そして放送メディアから離れていく動きは、教育に対して深い意味を持つものでしょう。もちろん社会にとっても同様です。

6.4.3 この特徴の教育メディアへの応用

このような分析の手法は教室での指導のようなテクノロジーを使わないコミュニケーション手段、あるいは「メディア」にも当てはめることができます。小さいセミナーではコミュニケーション的な側面があるのに対し、講義形式には放送的な側面があると言えます。図6.4.3ではいくつかの一般的な技術について、オンライン・メディア、教室、放送的/コミュニケーション的な連続体に沿って並べてみました。

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Figure 8.6
図6.4.3 知識の広がりの連続体(1段目:オンライン、2段目:教室、3段目:テクノロジー、黒矢印左:放送メディア的、黒矢印右:コミュニケーション・メディア的、緑矢印左:権力が教員側にある、緑矢印右:権力が学習者側にある。)

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下記のアクティビティーを行う際、次のことに注意しておくことが重要です。

  • この連続体についての一般的な規則的・評価的判断はありません。
    放送は一貫性のある形で情報を大人数に届けるには優れた方法です。また、対話型のコミュニケーションはグループ内のそれぞれが知識構築や普及のプロセスに貢献できるものを等しく持っている場合にうまく機能します。メディアやテクノロジーが適切であるかの判断は、状況がどうであるか、とりわけ利用可能な教材や、適用される一般的な教育理念に強く依存しています。
  • 特定のメディアやテクノロジーがこの連続体の中のどこに置かれるかは、ある程度までは実際の設計・利用・適用に依存するでしょう。例えば、教員が45分間講義した後で10分間のディスカッションをさせる場合、対話型の講義といっても、その中での放送的な要素は、より多くの質疑応答の時間をとる場合と比べると少なくなるでしょう。
  • 「コンピュータ」を連続体の真ん中に置いてみました。コンピュータはテレビ番組を使った学習のように放送メディアとしても使われますし、オンライン・ディスカッションのようにコミュニケーションをサポートするためにも使われます。実際にはコンピュータの連続体の中での位置は、教育の中でどのようにコンピュータを使うかにも関わってくるでしょう。
  • 教育の観点からの重要な決定は「放送」と「議論」すなわちコミュニケーションの間の理想的なバランスで考えることになります。このことはテクノロジーを適切に選択する際の一つの要因なのでしょう。
  • この連続体は教員にとって、与えられた環境の中でどのメディアや技術が最も適切なのかを発見する手段です。教育のための様々なメディアやテクノロジーが連続体のどの位置にあるかを正確に決めることは目的ではありません。

したがって、あるメディアやテクノロジーが、放送メディア的かコミュニケーションメディア的かという連続体の中で、どこにぴったり当てはまるかについて考えることは、教育および学習の場面で使われるメディアやテクノロジーを決定する際の一つの要因です。

アクティビティー6.4 放送的かコミュニケーション的か

以下に挙げたものはどうでしょうか。

  • 学習管理システム
  • ブログ
  • オンライン協働学習
  • Twitter
  • セカンドライフ [オンライン・ゲーム]
  • ポッドキャスト
  • 無料公開されている電子教科書

1. どれがメディアでどれがテクノロジーなのでしょうか。確認してみましょう。両方に当てはまるということもあるかもしれません。では一体どのような条件で、そう言えるのでしょうか。

2. あなたの経験から、それぞれのメディアやテクノロジーを図6.4.3の中に置くとしたらどこでしょう。なぜでしょうか。このことも書き留めておきましょう。

3. 分類上、何が簡単で何が難しいのでしょうか。

4. この連続体はあなたの教育でどのメディアやテクノロジーを使うかを決める際、どのように便利なのでしょうか。何が決めるのに役に立ちますか。

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