A.6 学習者に対するサポート
学習者に対するサポートは、コンテンツの形式的な提供やスキル獲得以外に、学習者を支援するために教員ができること、またはすべきことに焦点を当てています。学習者に対するサポートは幅広い役割を網羅しており、本書の至るところで議論されていますが、特に下記で議論されています。
ここでは、なぜそれが効果的な学習環境にとって不可欠な要素であるのかを示し、学習者のサポートに関連する主なアクティビティーのいくつかを簡潔に説明することに重点を置いています。
A.6.1 足場かけ
私はスキャフォールディング(足場かけ)という用語を利用して、学習者が抱える困難を診断し、対処する上での教員の多くの役割について説明しています。
- 新しい概念や考え方に苦しんでいる時に学習者を助ける。
- 学習者がトピックや科目について深く理解するのを助ける。
- 学習者が様々な考え方や実践を評価するのを助ける。
- 学習者の知識の限界を理解するのを助ける。
- 挑戦的な学習者の現在の思考や練習のレベルを超えて、より深い理解、より高いレベルの能力を身に付けることを助ける。
足場かけは通常、対面やオンラインでの個人的な介入や、教員と個人や学生グループとの間のコミュニケーションという形をとります。足場かけは事前に計画されていないという傾向があり、教員の側にかなりの自発性と即応性が求められます。足場かけは通常、学習を個別化するための手段であり、学習上の個人差が発生した時に、より良い対応を行うことができます。
A.6.2 フィードバック
これは足場かけの下位項目と見なすこともできますが、何かを書く課題、プロジェクト作業、創造的なアクティビティーなどにおける学生の取り組みに対するフィードバックなど、現在および将来のコンピュータでは対応できないフィードバックを提供する役割を持つものです。繰り返しますがここでの教員の役割は、質的に評価した学生のアクティビティーに対して、さらに個別化したフィードバックを提供することであり、公式の評価と関連している場合もあれば、関連していない場合もあります。
A.6.3 カウンセリング
学習の中での直接的なサポートだけでなく、あるコースを繰り返し履修するべきかどうか、家族の病気のために課題を遅らせて良いか、コースへの登録を取り消して別の学期へ延期するかなど、事務的な、あるいは個人的な問題に関して、サポートや指導を必要とする学生は少なくありません。このような潜在的なサポートは、学生が専攻プログラムでの学術的な基準を満たしながら確実に合格できるようにするためにも、効果的な学習環境の設計に含めておく必要があります。
A.6.4 他の学生からのサポート
他の学生は当該学生にとって大きなサポートとなり得ます。この多くは学生同士の授業後の会話やソーシャル・メディアを介した繋がり、あるいはお互いの課題について助け合うといった形で、非公式に行われます。ただし教員は学生が一人ではなく他の学生と一緒に作業できるように、協働学習、グループ・ワーク、オンライン・ディスカッションを設計することで、公式に他の学生を活用することができます。
A.6.5 学習者サポートはなぜ重要なのか
優れた設計は、明確さを保証し、適切な学習活動を組み込むことで、学習者サポートの必要性を大幅に減らすことができます。一方、学生にとって、サポートの必要性は大きく異なります。既に中等後教育を受けている生涯学習者の多くは家庭を持ち、キャリアや多くの人生経験を持っているため、自分が何を学ぶ必要があるのか、それをどのように行うのが最善なのかを見極め、自己管理し、自律的に学習することができます。反対に、公的な学校制度にうまく適合できなかった者や、読み書きや数学などの基本的な学習スキルが欠如しているという理由で、学習に自信がない学生もいます。彼らを合格させるには多くのサポートが必要になります。
しかし、大多数の学習者はスペクトルの真ん中にいて、時々問題にぶつかり、どんな基準が要求されているのか分かっていないので、教員は彼らがどのような状態であるのかを知る必要があります。確かに少なくともオンライン学習では「教員の存在」がコースでの学生の成功や失敗に関連していることを示す多くの研究があります。教員が不在であると学習者が感じる場合、成績や修了率も低下します。そのような学習者にとっては、適切で素早いサポートが成功の鍵を握ります。
注意すべきこととして、良質の学習者サポートの必要性とそれを提供する能力は、教育メディアに依存していません。MOOC が登場するはるか昔から設計・提供されてきた単位を提供するオンライン・コースでは、強力な教員の存在と学生を確実にサポートする慎重な設計を通じて、高いレベルでの学習者サポートを提供できていることがよくありました。
ところでコンピュータ・プログラムでもいくつかの方法で学習者サポートを提供することができますが、高いレベルの概念学習やスキル獲得に関連する学習者サポートの最も重要な部分の多くは、対面式であれ遠隔教育であれ、専門の教員が提供しなくてはいけません。さらに、この種の学習者サポートは比較的、労力を必要とする傾向があり、対象分野での深い知識を有する教員を必要とするため、サポートを拡大するのは困難です。つまり大規模な学習を成功させたいのであれば、十分なレベルでの学習者サポートが必要なのですが、その提供は未だ望める状況にありません。
これは教員にとっては明白に思えるかもしれませんが、多くの MOOC の設計や、コスト削減を考える政治家やメディアの反応から分かるように、学生の成功に対する学習者サポートの重要性は必ずしも認識されておらず、その必要性の評価もされていません。むしろ学習者サポートを完全に排除するような動きさえ見て取れます。学習者サポートの必要性については、教員と教育機関では態度が異なる場合もあります。一部の教員は「指導するのは私の仕事であり、学ぶのはあなたの仕事です」と思っているかもしれません。言い換えれば、講義や課題図書を通して学生に必要な内容が提示されれば、残りは学習者次第です。
しかし、いかなる教育機関でも多種多様な学生がいるというありがちな現実においては、何千人もの学習者の将来を犠牲にしないためにも、教員が効果的な学習者サポートを提供する必要があります。
アクティビティーA.6 学習者サポートの構築
- 高い水準の学習者サポートがなくても、効果的なコースまたはプログラムを設計することは可能だと思いますか。もしそうなら、それはどのようなものでしょうか。MOOC の開発ですか。それとも全く違うものですか。
- デジタル時代の概念学習に必要な種類の高度な学習者サポートを提供するにはコンピュータには限界があるという私の見方には同意できますか。学習者を支援するという点では、コンピュータはどのように役立ちますか。
- このセクションで説明したような学習支援の種類を説明するために「足場かけ」という用語は最適ですか。それとももっと良い用語はありますか。