シナリオF:老いにどう立ち向かうか

ベス・カーター:みなさんおはようございます、BBCラジオのベス・カーターです。Open University が昨日アナウンスしたところによりますと、同校の今や世界最大というオンライン講座に50万人が登録したそうです。この OU の MOOC 講座ではみなさんにおなじみの話題を扱っています。加齢と、それに伴う困難と機会についてです。

スタジオにはこの講座でコーディネーターを務めるジェーン・ダイソンさんをお招きしています。ジェーンさんは55歳で社会事業に関わってこられたそうですが、これほど大規模なテクノロジーに基づく講座を行う人には見えませんね。どうしてこんなことになったんですか?

ジェーン・ダイソン:(笑)ぜんぶ私のせいなんです!私は何年も前に OU を卒業していまして、OU のオンライン同窓会が、世界で最も緊迫した課題について卒業生に意見を求めていたんですね。このような課題に OU がどう対応できるのかと。私は最近、お年寄りやそのご家族、時には雇用主に対して、加齢とともに浮上する様々な課題についてたくさんアドバイスをしているんです。

OU にはこのような課題に関するたくさんの講座やオンライン教材がありますが、利用には学位取得のために登録しないといけません。そうすれば教材は手に入りますが、サポートが何もないんですね。それに、いくら OU でも正規の授業で扱うには課題があまりにも多すぎるんですよ。ですから私が提案したのは、様々な人たちが関わる MOOC 講座を開いてはどうかということでした。医療従事者や公務員、介護士、家族、そして最も重要な老人自身が、問題や課題、どういったサービスが利用できるのか、自分たちにできることは何かについて話し合えると思ったんです。

ベス・カーター:それからどうなりました?

ジェーン・ダイソン:OU から、地元の OU オフィスに来てくれと依頼があり、何人かのスタッフと会いました。そこで、このような講座をコーディネートする意思はあるかと尋ねられました。

ベス・カーター:MOOCs についてもう少し教えてくれませんか。MOOCs は約10年前は話題になりましたが、そこから下火になり、最近ではあまり聞きませんね。この MOOC 講座がこれほどの人気になった理由はなんですか?

ジェーン・ダイソン:初期の MOOCs の問題は、参加者が迷子になってしまうことでした。多くの MOOCs は講義だけで、参加者が互いに助け合うことは参加者次第だったんです。組織というものがなかったのです。OU が行なったのは「加齢」MOOC 講座に登録した人にとても単純なオンラインのアンケートに答えてもらい、どこに住んでるかとか、加齢についての専門家かどうか、本人が老人なのかその家族なのかといった、詳細を尋ねました。そのデータにもとづいて自動的に参加者をグループに分け、各グループに様々な参加者が混じるようにしました。

ベス・カーター:なぜそれが重要なのですか?

ジェーン・ダイソン:OU の教育技術センターは初期の MOOCs について研究を行なっていて、大規模なオンライン授業でうまくグループが機能するにはどうしたら良いかという課題を扱っていました。センターは KMI と呼ばれる OU の他の研究グループと共同で調査を行なっていたのですが、KMI は参加者をグループ分けするのに私たちが利用しているソフトウェアを開発している部局で、このおかげでグループ内の議論で浮上した課題について各グループに十分な数の専門家やサポートが配置されているんです。

ベス・カーター:それはどのように機能するのでしょうか?

ジェーン・ダイソン:話題にのぼる課題や話題の種類は信じられないほど多様です。例えば、父親や母親が認知症を患っているんですが、どうすれば助けになるのか分からない、切羽詰まっているという家族がグループのメンバーにいます。また、お年寄りのメンバーの中には、自分のことは自分でできると思っているのに家族から家を追い出されそうだと感じている人もいます。公務員のメンバーの中には、仕事量が多すぎてクビになりそうとか、訴えられそうになっている人もいます。そして、ただ単に年老いて孤独で、誰かと話したいというメンバーもいるのです。こうした参加者を全員オンライン上の議論フォーラムに入れると、その結果は驚くべきものです。大事なことは同じグループの中に助け舟の出せる十分な専門知識を持つ人をちょうどよい具合に混ぜること、そして、議論を仕切れる人をグループに入れることです。私たちはイギリスだけでなく、参加者のいる国々で利用できるサービスの膨大なリストを持っています。ですからこの講座はある意味では自助的な支援サービスなのですが、より大きな実践コミュニティに所属しているというわけです。

ベス・カーター:海外からの学生についてお話したいのですが、私の理解では、参加者のおよそ半数がイギリス以外からだとか。

ジェーン・ダイソン:そのとおりです。加齢人口の問題はイギリスだけのものではありません。OU は世界中のオープン大学と非常に緊密な繋がりを持っています。この講座の開始について話し合っているとき、OU は他のオープン大学のいくつかを訪問し、講座の参加に関心があるかどうか尋ねました。現在、この講座は英語で提供されているのですが、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、日本、カナダ、アメリカ、そして他の多くの国々から参加者が集まっています。他にスペインではスペイン語、バスク語、カタルーニャ語で教材を提供するミラーサイトを設けていますが、この議論フォーラムはカタルーニャのオープン大学が管理を担当しています。そのため、スペインだけでなくラテン・アメリカからの参加者もいます。私たちはまもなく中国のオープン大学とも同様の合意を結ぶ予定です。そうすればさらに50万人の参加が見込まれます。嬉しいことに参加者がたくさんいますから、常にバイリンガルの参加者がいて、ある言語で起こった議論を別の議論に翻訳してくれるんです。

ベス・カーター:次に何をするおつもりですか?

ジェーン・ダイソン:この加齢についての講座で常に議論の的になっている大きな問題のひとつは心の健康についてです。もちろんこれはお年寄りに限りません。この講座では既に国会に対して孤独な老人へのより良い福祉を求める請願書を提出しました。おそらく今後数年のうちにこの分野で明るい進展があると思います。OU は心の健康について同様の MOOC 講座を検討中のようですし、喜んでお手伝いしたいですね。

ベス・カーター:ありがとう、ジェーン。来週はオンライン・ギャンブルについてカウンセラーをお招きして議論します。

 

これはイギリスのオープン大学における2014年の教育・学習計画の一貫として開発された仮説シナリオです。

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