4.4 オンライン協調学習

4.4.1 オンライン協調学習とは

学習に対する構成主義の手法とインターネットの発展が同時に発生したことにより、構成主義的な特徴を持つ新しい教育方法が次第に作られてきました。従来は「コンピュータを介したコミュニケーション」(CMC) や「ネットワークによる学習」と呼ばれていましたが、Harasim(2012) は「オンライン協調学習理論」(OCL) と名付けました。Harasim は OCL について、以下のように述べています。(p.90)

OCL の理論は学生がともに励ましあい、支援しながら知識の習得を目指すための学習モデルを提示します。ここでいう知識とは、発明や新しい方法を作り出す方法の探究であり、そのことを通じて課題を解決するために必要となる構造化された知識を探求することを意味します。そのため、正解と考えられる内容を丸ごと暗唱するような学習とは異なります。 OCL の理論では学生が活動的になり、相互に関わり合うことを奨励していきますが、学習や知識の構築にとって、この方法で十分であるとは考えてはいません。(中略)OCLの理論では、教員は学習者に対するフェローではなく、知識コミュニティや、その専門領域における最先端の研究に繋げる役割を担います。学習は概念の取り替えであると定義され、知識を構築ための重要な鍵となるものです。学習活動はその専門領域における規範、概念の学習を強調する対話のプロセスによって示され、導かれる必要があります。そして知識が構築されるのです。

OCL は認知的発達に重点を置く「対話による学習の理論」(Pask, 1975) や「深い学びの状態」(Marton and Saljø, 1997; Entwistle, 2000)、「学術的な知識の発達」(Laurillard, 2001)、「知識の構成」(Scardamalia and Bereiter, 2006) の諸理論を土台とし、これらを統合して作られています。

オンライン学習の初期の頃は、インターネット上でのコミュニケーションとして実現可能なことを重要な研究課題としている教員もいました (例えば、Hiltz and Turoff, 1978) 。彼らの教育手法は学生同士または学生と教員との間で行われる、主に非同期のオンラインでのディスカッションによって次第に知識が構成されていくという考え方に基づいていました。

オンラインでのディスカッション掲示板は1970年代に遡ります。しかし1990年代の World Wide Web の誕生、高速なインターネット・アクセス、そして現在ではほぼ全てにおいてオンライン・ディスカッション機能を持っている LMS の開発が組み合わされた結果、実際に使われ始めたと言えるでしょう。そして、このようなオンライン・ディスカッション掲示板について教室でのセミナーと比べると、いくつかの違いがあります。

  • 文字ベースであり、口述のものではありません。
  • 非同期で行われます。参加者はいつでもログインすることができ、インターネットの接続があればどこからでもアクセスできます。
  • 多くのディスカッション・フォーラムは「スレッド型」に接続することができ、単に時系列の順番で表示されるのではなく、特定のコメントに対する返信は、そのきっかけとなった投稿に紐づけられます。つまり動的なサブ・トピックを生成することができ、時には1つのスレッドに10以上ものコメントが付くこともあります。この仕組みにより一度に複数のディスカッションを追いかけることが可能になります。

4.4.2 OCL の中心となるデザイン原則

Harasim は対話を通じて知識構築を行うための3つの段階の重要性について強調しています。

  • アイデアを生み出す:文字通りブレインストーミングを行い、グループの中で互いに異なる意見を出し合いながら集約します。
  • アイデアの整理:集約された様々な意見について学習者が比較、分析、分類を行い、さらに議論や意見交換を行います。
  • 知識の収束:ここでの目的は知識の統合であり、賛成、反対を含めて、理解と合意を目指すことになります。多くの場合、エッセイや課題などの作品や作業と組み合わせながら行います。

Harasim はこの段階を「最終段階」と呼んでいますが、実際にはこの段階が本当の意味で最後になることはありません。なぜなら学習者にとって、ひとたびアイデアの収集、整理、収束が行われはじめると、さらに深いレベルまでその流れが継続していくことになるからです。この段階における教員の役割は重要であると考えられています。それは学習を促進させるためのプロセスの進行、適切な学習素材の提供、学習者の学びに自信を持たせる活動だけにとどまらず、知識コミュニティやその科目領域の代表者として、その領域で核となる概念、実践、基準、原則が学習サイクルの中に完全に統合されているかどうかを確認しなければなりません。

Harasim はこのプロセスを次の図で提示しています。

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Figure 4.3.2: Harasim's pedagogy of group discussion (from Harasim, 2012, p. 95)
図4.4.2 Harasim によるグループディスカッションの教育論 (Harasim, 2012, p.95より許可を得て掲載)

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別の重要な要素として、OCL モデルにおいては、ディスカッション・フォーラムは教育のための重要な構成要素であり、教科書や動画講義、LMS に掲載される文字情報を補足するために用いるような副次的な付け加えというような位置付けではないということです。教科書や課題図書、他の学習素材もディスカッションを促進するために選ばれることはありますが、その逆になることはありません。これは重要なデザイン上の原則であり、「伝統的な」オンラインコースにおいて学生がディスカッションに参加しないという教員からの不平不満がなぜ発生するを説明するためにも使われます。多くの場合、オンライン・ディスカッションは講義内容と比べると二次的に利用されるものであったり、その運用や設計において知識構築を支援することが念頭に置かれていないことが原因となります。そのため学習者はディスカッションについて、オプション的な位置付けや追加課題としてしか捉えることがありません。なぜなら彼らにとって直接的な成績や評価への影響が見えてこないからです。このことはディスカッション・フォーラムに参加することで評価を与えるということが的外れであることの説明ともなります。ディスカッションに参加することが外発的な動機であってはならず、ディスカッションに内発的な動機によって参加しなければならないからです。(例えばBrindley, Walti and Blashke, 2009 を参照)

4.4.3 探求の共同体

探求の共同体モデル Community of Inquiry Model (CoI) は OCL モデルにある程度、似通っています。 Garrison, Anderson, Archer (2000) は以下のように定義しています。

教育的な意味をもつ探求の共同体とは、個人の集合であり、目的のある対話の中で一人一人がお互いを批評しながら高めあっていきます。そして、一人一人が自分自身の趣旨を築き上げ、相互理解の承認を通じた省察を行なっていきます。

Garrison, Anderson, Archer は探求の共同体には以下の3つの重要な要素があるとしています。

  • 社会的存在感は「参加者自身が学習コースなどの集団に参加していると認識できる能力、信頼できる環境の中で目的意識を持ってコミュニケーションできる能力、および一人一人が個性を表現し、個人と個人の間の関係を向上させることができる能力」です。
  • 教育的存在感は「一人一人にとって意味があり、教育的に意義のある学習成果を実感することを目的とした、認知的・社会的プロセスの設計、促進、方向づけ」です。
  • 認知的存在感は「継続的な省察と対話の中で、学習者がその意味を構築し、確認することができる範囲」です。

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図4.4.4: 探求の共同体(Community of Inquiry)の概念. <br />図© Terry Anderson/Marguerite Koole, 2013
図4.4.4 探求の共同体 (Community of Inquiry) の概念.
© Terry Anderson/Marguerite Koole, 2013

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しかし CoI は設計というよりも理論に近いものです。それは3つの影響力に対してどのような活動や状態が必要となるかを示していないからです。OCL と CoI の2つのモデルは競争しあうものというより、むしろ相補的なものなのでしょう。

4.4.4 有意義なオンライン・ディスカッションの開発

CoI の原典が2000年に出版されて以来、とりわけオンライン学習に関する3つの「影響力」の重要性を指摘する非常に多くの研究が行われています。どのようなものがあるかについてはこちらをクリックしてください。幅広い領域の研究者や教育者がオンライン協調学習や探求の共同体の研究に注力してきており、成功に導くための方略やデザイン原則について、高い次元での見解の集約と賛同がなされています。学問的・概念的な発展に向けて、ディスカッションは教員の手で効果的に管理運営する必要がありますし、学生がアイデアを発展させながら新しい知識を構成できるようにするため、教員は十分な支援を行う必要があります。

このような研究成果の一部として、そして OCL にも CoI にも影響を受ける必要性のなかったオンライン教育の指導者たちによって、以下のようなデザイン原則が(オンライン)ディスカッションの成功と関連づけられてきました。

  • 適切なテクノロジー:例えば、スレッド型ディスカッションを可能とするソフトウェア。
  • オンラインで学生が活動する際の明確な運用基準:例えばオンライン・ディスカッションに参加するにあたっての決まりごとや、要求されることなど。
  • 学生向けのオリエンテーションと準備:これにはテクノロジーの説明やディスカッションの目的の説明なども含まれます。
  • 明確なゴール:これはディスカッションを行うにあたって学生が理解していなければいけないことです。例えば「ジェンダーや階級社会についての問題を課題図書の中で見つけ出すこと。」や「代わりとなるプログラミング方法について比較および評価を行うこと。」などになります。
  • 適切なトピックの選択:これは学習教材の内容を補完・拡張するものであり、成績評価のための設問とも関連があるものになります。
  • ディスカッションのための適切な「マナー」や必要事項を設定する:例えば相手に敬意を払いながら反対意見を述べること、証拠に基づいて議論することなど。
  • 学習者としての役割と期待をはっきりと決めておくこと:例えば「少なくとも週に1回、それぞれのディスカッション・トピックにログインし、毎週それぞれのトピックの議論に対して、少なくとも1件の実質的な貢献すること。」など。
  • 一人一人の学習者の参加状況を管理し、それぞれに応じて返事をすること:適切な足場かけや支援によって行うことになります。例えば学生がトピックに関連する情報を考えやすくするコメントや、必要に応じて学習教材を参照させること、学生が課題について困っていたり誤解したりしてしまっていたときの解説などが含まれます。
  • 定期的かつ継続した教員の「存在感」:例えば、ディスカッションのトピックがテーマから外れてしまったり、あまりにも個人的な内容に逸れてしまったりするのを避けるよう観察しておくこと、あるいはディスカッションで良い貢献がなされたものを奨励するために観察しておくことが含まれます。また、ディスカッションの内容を一部の学習者が独占してしまうのを回避したり、参加していない学習者を確認したりしながら、参加するよう促すことなども含まれます。
  • ディスカッションのトピックと評価との間で強い関係性を保証すること

これらの問題については、Salmon (2000)、Bates and Poole (2003)、Paloff and Pratt (2005; 2007) でより深く議論されています。

4.4.5 文化的および認識論的な課題

学生は様々な期待や背景を持って学習を経験するために集まります。その結果、ディスカッション主体の協調学習に参加しようとすると、学生間でしばしば文化的な違いが生じることがあります。最終的にこのことが原因となって、伝統的な学習・教育の手法よりも教育効果が相当低くなってしまう場合もあるでしょう。教員は言語、文化、認識論の点で困難を感じている学生に気を配る必要がありますが、オンラインのクラスでは学生はどこからでも参加することができるため、なおさら重要な課題となります。

多くの国では教師の権威に重きが置かれており、教師から学生への情報伝達としての教育が行われています。文化圏によっては、教師の意見に対して批評したり異を唱えることは失礼であると判断されるところもあります。場合によっては、他の学生に対する批評であっても失礼になってしまうかもしれません。教師が主体となる権威主義的な文化においては、他の学生の意見は無関係なものであり、全く重要視されないこともあるでしょう。一方で、文化によっては直接的な指導を行うのではなく、口承によって物を伝えることに重きをおくところや、物語に沿った形での教育が重視されるところもあります。

そのため、オンライン学習活動に構成主義的なアプローチによる設計が利用された場合、学生にとっては大きな負担になることもあります。これは、構成主義的な学習アプローチに不慣れな学生に対しては特別な支援が必要となる可能性があることも意味します。例えば、クラス全体に対する投稿の前に、一度教員にメールで下書きを送らせて確認するといったものが考えられます。オンライン学習における比較文化の問題については、Jung and Gunawardena (2014) や the journal Distance Education, Vol. 22, No. 1 (2001) を参考にしてください。

4.4.6 オンライン協調学習の長所と短所

教育に対してテクノロジーを用いる際の方法は千差万別であり、コンピュータ支援型学習に見られる客観主義的な利用法と、ティーチング・マシンと、これまで人間の教員が行なってきた活動の一部をコンピュータによって置き換えようという取り組みがみられる人工知能の教育利用とでは全く異なります。オンライン協調学習においては、テクノロジーの利用は教員の置き換えではなく、社会的な対話を通じて支援され構築された、知識構築に基づく特定の方法によって学習を発展させることで、教員と学生との間のコミュニケーションを増加し、改善することを目的としています。さらに、このような社会的な対話は手当たり次第によるものではなく「足場かけ」の学習になるように運用されています。

  • ある意味、教員が導くことで知識構築を支援することにより
  • 学習領域での基準や価値感を反映し
  • 更に、学習領域において事前に必要とされる知識を大切にしたり考慮に入れることにも繋がります。

ですから、このモデルには2つの主たる長所があります

  • 適切に利用されれば、オンラインでの協調学習は、大学の教室で行われるディスカッションと同じ程度にまで、深く、学術的な、あるいは変化させる学びへと導くことができます。非同期かつ録画されたオンライン学習の「環境」は、対面でのディスカッションで明らかな手がかりや他の側面が失われてしまうことの埋め合わせ以上の役割を持つでしょう。
  • オンラインでの協調学習は、結果として高い次元での知的技能の発達を直接的に支援することにもつながります。例えば、批判的思考、分析的思考、統合、評価など、デジタル時代の学習者にとって求められるものです。

一方で、いくつかの限界もあります。

  • 高いレベルの知識と技能を有した教員や、受け入れ可能な学習者の数に限りがあることから、規模を変更することは容易ではありません。
  • 例えば人文社会系や教育系、一部のビジネススキルや医療関連の分野のような認識論の立場である教員にとっては馴染みやすい傾向にありますが、逆に科学やコンピュータ・サイエンス、工学などの分野では馴染みにくい傾向があります。しかし問題解決型と探究型とのアプローチを合わせることで、これらの領域においてもある程度の受け入れは可能かもしれません。

4.4.7 要約

協調学習に関しては、対面であれオンラインであれ、多くの長所や短所があります。オンラインでの協調学習と、よく設計・運営された教室型でのディスカッション主体の教育とでは、ほとんど違いはないと言えるでしょう。繰り返しになりますが、配信方法は設計方法と比べると、それほど重要ではありません。実際、どちらの文脈においても有効に機能するからです。つまり同期型であれ非同期型であれ、遠隔であれ対面型であれ、実施することができます。

しかし協調学習がオンラインでも同様に実施できるということに関しては、十分な証拠があります。これは重要であり、必要に応じて、デジタル時代における多様な学習者が求める方法に合った柔軟な方法で配信できます。また、常に万能であるわけではないにせよ、オンラインの教育を成功に導くために必要な方法については、現在ではよく知られています。

アクティビティー4.4: オンライン協調学習モデルの評価

  1. 「オンライン協調学習(OCL)」と「探求の共同体」との違いは分かりましたか。それとも、実は同じモデルを違う呼び方で扱っているものだったのでしょうか。
  2. これらのモデルのいずれかで、オンライン授業や対面授業での成功が期待できると考えますか。
  3. これらのモデルについて、その他の長所や短所は思いつきますか。
  4. これらの共通認識は、理論として成立していくと考えますか。
  5. これらのモデルを量的な科学、例えば物理学や工学の分野で利用することは意味があるでしょうか。もしそうであるなら、どのような状況が該当しますか。

参考文献

Bates, A. and Poole, G. (2003) Effective Teaching with Technology in Higher Education: Foundations for Success, San Francisco: Jossey-Bass

Brindley, J., Walti, C. and Blashke, L. (2009) Creating Effective Collaborative Learning Groups in an Online Environment International Review of Research in Open and Distance Learning, Vol. 10, No. 3

Entwistle, N. (2000) Promoting deep learning through teaching and assessment: conceptual frameworks and educational contexts Leicester UK: TLRP Conference

Garrison, R., Anderson, A. and Archer, W. (2000) Critical Inquiry in a Text-based Environment: Computer Conferencing in Higher Education The Internet and Higher Education, Vol. 2, No. 3

Harasim, L. (2012) Learning Theory and Online Technologies New York/London: Routledge

Hiltz, R. and Turoff, M. (1978) The Network Nation: Human Communication via Computer Reading MA: Addison-Wesley

Jung, I. and Gunawardena, C. (eds.) (2014) Culture and Online Learning: Global Perspectives and Research Sterling VA: Stylus

Laurillard, D. (2001) Rethinking University Teaching: A Conversational Framework for the Effective Use of Learning Technologies New York/London: Routledge

Marton, F. and Saljö, R. (1997) Approaches to learning, in Marton, F., Hounsell, D. and Entwistle, N. (eds.) The experience of learning: Edinburgh: Scottish Academic Press (out of press, but available online)

Paloff, R. and Pratt, K. (2005) Collaborating Online: Learning Together in Community San Francisco: Jossey-Bass

Paloff, R. and Pratt, K. (2007) Building Online Learning Communities: Effective Strategies for the Virtual Classroom San Francisco: Jossey-Bass

Pask, G. (1975) Conversation, Cognition and Learning Amsterdam/London: Elsevier (out of press, but available online)

Salmon, G. (2000) e-Moderating: The Key to Teaching and Learning Online London: Taylor and Francis

Scardamalia, M. and Bereiter, C. (2006) Knowledge Building:  Theory, pedagogy and technology in Sawyer, K. (ed.) Cambridge Handbook of the Learning Sciences New York: cambridge University Press

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