7.4 動画
7.4.1 よりパワフルに、より複雑に
過去25年間で動画技術は大きく変化し、その結果、動画の作成と配信の両方でコストが劇的に削減されましたが、動画に独特な教育特性はほとんど影響は受けていません。(シミュレーションなど、最近のコンピュータによって生成されたメディアについては、7.5節の「コンピュータの利用」で分析します。)
文字や音声を提供できる機能に加え、流れるように動く画像さえも提供できることから、動画は文字や音声よりもはるかに「リッチな」メディアです。したがって、音声のあらゆるアフォーダンスと文字の一部のアフォーダンスが提供できますが、動画にしかできない独自の教育学的特徴も持ち合わせています。同様に、教育において動画を利用した研究もかなり多く存在しています。ここでもオープン大学での研究 (Bates, 1985; 2005; Koumi, 2006) と Mayer (2009) を示しておきましょう。
リンクをクリックすると以下にリストされている多くの特徴の例が表示されます。
7.4.2 表現力の観点から
動画は以下のそれぞれに利用することができます。
- 実験や現象を実演する場合。
- 観察される機器や現象が大きい場合、あるいは顕微鏡でしか見えない場合、高価な場合、近寄ることが困難な場合、危険な場合、または特別な機器を使わないと観察できない場合。(ノッティンガム大学での例を見るにはクリックしてください。)
- 材料が十分でない場合、あるいは学習者が実験するには不適切な場合。(例:生き物や人体の部分) ( UBC による脳の解剖学的構造の例を見るにはクリックしてください。)
- 実験デザインが複雑な場合。
- 変化しやすいため制御することはできないが、観察できるものが実験的な行動に影響を与える可能性がある場合。
- 流動的な変化や動きを含む原則について説明する場合。 ( UBC による指数関数的成長の説明の例を見るにはクリックしてください。)
- 抽象的な原理を特別に構築された物理モデルによって説明する場合。
- 3次元空間に関わる原理を説明する場合。
- アニメーションやスローモーション、またはスピードアップした動画を使って経時変化を観察する場合。 ( UBC による、どのようにインフルエンザ菌細胞が DNA に取り込まれるかの例を見るにはクリックしてください。)
- 現場を訪問する代わりとして。
- 調査している話題を文脈に置いて、正確な包括的な視覚的画像を学習者に提供する場合。
- 調査中のシステムの様々な要素間の関係を示す場合。(例:製造工程や生態系のバランス)
- 現場での現象について異なる部類や種類で識別したり区別したりする場合。(例:森林生態学)
- 実験室での技術と量産での技術について、規模やプロセスの違いを観察する場合。
- 学生が高度な数学的手法を習得していない段階で、ある高度な科学的・技術的な概念(相対性理論や量子物理学など)をモデルやアニメーション、シミュレーションを使いながら教える場合。
- 学習者に一次資料やケース・スタディの素材を見せたい場合、つまりコースの中の他の部分で扱われる原理について、自然発生する出来事の記録を、編集や選択をすることなく実演したり説明する場合。
- コース内で扱われる概念は抽象的な原理または概念ではあるが、それが実社会でどのように応用されるかを実演する場合。
- 非常に変化に富んだ様々な問題を一つの記録された出来事としてまとめる場合、例えば現実世界の問題がどのように解決されるかを示すなど。
- 意思決定プロセスやその決定を「実行中のもの」として示す場合。(例:緊急事態におけるトリアージ)
- 意思決定プロセスが実際の状況で発生した時の記録
- 「段階的な」シミュレーション、ドラマ化、またはロールプレイングの記録
- 道具や機器を利用する際の正しい手順(安全に使うための手順を含む)を実演する場合。
- パフォーマンスの方法や技能を実演する場合など。(例:気化器の分解と再組み立て、スケッチ、描画または塗装の技術、ダンスなどの機械的スキル。)
- コースの中では重要な話題だが、近いうちに消されたり破壊される可能性のある出来事、例えば街頭の落書きや利用不適切と宣告された建物などを記録および保存する場合。 (バンクーバーのネオンライトの例を見るにはクリックしてください。)
- 学習者自身が行うべき実習活動の説明をする場合。
7.4.3 スキル開発の観点から
通常、学習者の動きに結びつくスキルの開発には動画が必要です。大抵の場合、学生の活動は動画の視聴とは別のタイミングで行われますので、動画を一時停止したり、巻き戻したり、再度再生したりできる機能はスキル開発にとって非常に重要です。動画を使うことは、学生にその活動について注意深く考えさせることにもなるかもしれません。
研究によると、動画が講義に直接使われない場合であっても、少なくとも学習の最初の段階では、学習者たちが何を探すべきか、動画での説明があったほうが良いことがはっきりしています。具体的な出来事を抽象的な原理と関連づけるためには、音声によるナレーションを動画に重ねる、観察を強調するために一旦停止させる、番組内容の細かい部分だけを繰り返すといった、様々な技術があります。Bates and Gallangher (1977) では、高次の分析や評価を行うスキル開発のために動画を利用することは、コースや番組の開発に組み込むべき、教えることができるスキルであり、動画を用いることが最高の結果に繋がるということを発見しました。
スキル開発における典型的な動画の用途は次の通りです。
- 学習者が置かれた空間の中で自然に発生する現象や分類を認識できるようにする。(例:教室での教育ストラテジー、精神疾患の症状、教室での行動。)
- 教科書や講義、録画された動画やコースの中で扱われている原則を利用して、学習者が状況を分析できるようにする。
- 芸術的なパフォーマンスの解釈。(例:ドラマ、詩の朗読、映画、絵画、彫刻、またはその他の芸術作品。)
- 演奏、説明、図示による作曲の分析。
- 現実世界における抽象化や一般化の実現可能性や関連性を試す。
- 現実世界における現象を別の言葉で説明する方法を探す。
7.4.4 教育メディアとしての動画の長所と短所
動画が学習において強力である1つの要因は、具体的な事例と抽象的な原理の関係を示すことができるからです。そして通常、動画内では抽象的な原理を具体的な出来事と結びつける際に音楽が使われます。動画は撮影された出来事に学習者が立ち合うことが難しい場合、危険な場合、高価な場合、非現実的である場合に特に有効です。
動画の主な長所は以下の通りです。
- 具体的な出来事や現象を抽象的な原理と結びつけたり、その逆のことを行なったりすることができます。
- 学習者自身が活動を動画と一致させるために、いつでも一時停止や再生を行うことができます。
- 抽象的な概念を学ぶことが難しい学習者に役立つ代替方法を提供できます。
- コースを現実世界の問題をリンクさせることで、学習内容に大きな関心を付け加えることができます。
- 無料で利用できる高品質な学術的動画がますます増えています。
- デジタル時代に必要とされる、一部のさらに高度な知的スキルと実用的スキルを習得するために適しています。
- 低コストのカメラと無料の編集ソフトウェアを利用することで、ある種の動画を安価に制作することができます。
これらの機能の他にも、動画は音声の持つ機能の多くを組み込むことができる点にも留意する必要があるでしょう。
動画の主な短所は、以下のとおりです。
- 講義の記録以外に動画を利用することについての知識や経験がない教員が多いです。
- メディアに独自の特徴を生かした高品質の教育用ビデオを開発するコストは今なお比較的高いため、無料でダウンロードできる教育用ビデオは非常に限られています。また、リンクはしばらく経つと消えてしまうことがあり、外部委託の動画の信頼性にも影響を与えます。無料の教育用素材の入手しやすさは年々拡大していますが、今のところ教員の特定のニーズを満たす、適切で無料の動画を見つける作業には時間がかかります。また、そのような教材が入手できない場合や信頼できない場合もあるでしょう。
- 動画に独自の特性を生かしたオリジナルの素材を作成するのは時間がかかり、また比較的高価です。通常はプロによる動画作成が必要です。
- 教育用動画を最大限に活用するには、動画そのものに沿って設計された活動を学習者に与える必要があります。
- 学習者は分析や解釈を要求するような動画は拒みがちです。彼らは理解に焦点を絞った、まっすぐな指導を好むものです。このような学習者が動画を利用するためには、別の観点からの訓練が必要です。さもなければ分析や解釈のようなスキルを身につけるための時間をかけなければなりません。
このような理由から、動画は教育においては十分に活用されていません。動画は授業設計の中に統合された形式ではなく、後からの思いつきや「追加」として利用されることが多いです。あるいは動画の特性を活用するのではなく、単に教室での講義を再現するために利用されます。
7.4.5 評価の観点から
7.4.3節で概説したスキルを開発するために動画が利用されている場合、このようなスキルそのものを評価し、成績に加算することが不可欠です。実際上の評価方法としては教員が選択した動画について、分析したり解釈するよう学習者に指示すること、あるいは学習者自身が自分たちの機器を利用して集めた、または制作した動画を使い、独自のメディアプロジェクトを開発させることが挙げられます。
アクティビティー7.4 動画に独特な教育的特徴を見極める
1. あなたが教えているコースの中から1つ選んでみましょう。このコースでは動画について、どんな重要な表現的機能があるでしょうか。
2. 本書のセクション1.2に記載されているスキルを見てみましょう。他のメディアではなく動画を使うことで最もよく開発されるスキルはどれでしょうか。動画中心で教えるにはどうしたらよいでしょうか。
3. どのような条件の下でなら学習者を評価するにあたって、分析させることや自身の動画を撮影させることが適切でしょうか。どのような評価条件でこれを行うことができるでしょうか。
4. あなたが探したいトピック名の後に動画と入力し、Google検索してみましょう。
- 動画はいくつ見つかりますか。
- どんな感じの品質なのでしょう。
- あなたは教える活動の中で、これらのいずれかを活用できますか。
- もしそうなら、どのようにこれらを学習コースに統合できるでしょうか。
- あなたはそのトピックに関するより優れた動画を作ることができますか。
- どうすればこれができるようになるのでしょうか。
あなたが見つけたものに付け加えたいと考える基準をいくつか示します。
- それはあなたが教えたい内容に関連していますか。
- それは特定の話題や問題を明確に示しており、学習者が学びたいものに直結していますか。
- それは短く、核心を突いていますか。
- 例がうまく構成されていますか。(明確なカメラワーク、優れたプレゼン、明瞭な音声。)
- あなた自身では簡単に実現できなかったことが含まれていますか。
- 商用でなければ完全に自由に使うことができますか。
残念ながら私がインターネット上で見つけた例のほとんどは、このような基準に合っていないと言わざるを得ません。私がこの節でリンクした動画もありますが、その一部はオープン大学のために製作されています。さて、従来の大学のメディア部門が開発したものは、この基準を満たせますか。
参考文献
Bates, A. (1985) Broadcasting in Education: An Evaluation London: Constables (out of print – try a good library)
Bates, A. (2005) Technology, e-Learning and Distance Education London/New York: Routledge
Koumi, J. (2006). Designing video and multimedia for open and flexible learning. London: Routledge.
Mayer, R. E. (2009). Multimedia learning (2nd ed). New York: Cambridge University Press.
See also: