7.6 ソーシャル・メディア
ソーシャル・メディアは主にインターネットを基盤とするものであり、またコンピュータの利用の中に含まれますが、ソーシャル・メディアによる教育には、コンピュータを基盤とする学習やオンライン協働学習とは異なる教育メディアとして扱うだけの十分な理由があります。もちろんソーシャル・メディアは他の形態のコンピュータの利用に依存しており、完全に統合されていることもよくあります。主な違いはソーシャル・メディアが学習者に委ねている学習管理の大きさにあります。
7.6.1 ソーシャル・メディアとは
2005年頃、新しい種類の Web ツールが一般的な用途として現れ、徐々に教育的な用途でも使われるようになってきました。これらも大まかにはソーシャル・メディアであると表現することができます。なぜならこれらは従来型の「中心から周辺へ」という組織的なWebサイトの情報の押し出しとは異なる Web 利用の文化を反映しているからです。
以下は一部のツールと利用法です。可能な例は他にもいくらでもあるでしょう。それぞれについて教育用アプリケーションとしての利用例を見るにはクリックしてください。
図7.6.2ソーシャル・メディアの例(Bates, 2011、p.25より引用)
種類 | 例 | 応用例 |
ブログ | Stephen’s Web | 個人がWeb上に定期的に投稿することができるようになる。例えば日記や現状の出来事の分析など。 |
Wiki
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Wikipedia
UBC’s Math Exam Resources |
無料の共同作業による「出版」であり、人々が情報そのものを寄稿したり作成したりできる。 |
ソーシャル・メディア | 人々を友達や同僚と繋ぐ社会的に有益な道具で、協働学習や交流を可能にする。 | |
マルチメディア・アーカイブ
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Podcasts | 利用者がアクセスし、録音した音声や写真、撮影した動画を蓄積し、ダウンロードしたり共有したりできる。 |
仮想世界 | Second Life | 同じ瞬間に仮想的な場所で人々と擬似的なランダムで繋がったりコミュニケーションしたりできる。 |
多人数によるゲーム | Lord of the Rings Online | 通常は同じ瞬間に、コンピュータによって第三者や第三者グループと競争したり共同作業をしたりすることができる。 |
モバイル学習 | Mobile phones and apps | 利用者はいつでもどこでも様々な形態の情報にアクセスできる(文字、音声、動画など) |
ソーシャル・メディアの主な特徴は、利用者は使いやすい無料の環境で簡単にアクセスし、そこで情報を作成したり広めたり共有したりできることです。通常、唯一のコストは利用者の時間だけです。大抵の場合、州や政府が規制する名誉毀損やポルノなどを除けば、コンテンツへの規制はほとんどありません。あるとすれば利用者自身の判断でしょう。このようなツールを使うことにより、利用者(学習者や顧客)は自らアクセスしてデータを管理すること(例えばオンライン銀行などを通じて)や個人的なつながりを形成すること(例えば Facebook などを通じて)ができるようになります。このため、ソーシャル・メディアをWebの「民主化」と呼ぶ人もいます。
一般的にはソーシャル・メディアは非常に簡単なソフトウェアです。それは、プログラム自体の行数が比較的少ないからです。その結果、新しいツールやアプリケーション(アプリ)が次々と現れており、これらの利用は無料、あるいは非常に低コストです。教育におけるソーシャル・メディアの利用についての広範かつ優れた概説は、Lee and McCoughlin (2011) を参照してください。
7.6.2 ソーシャル・メディアに一般的なアフォーダンス
「アフォーダンス」の概念はソーシャル・メディアの議論で頻繁に使われています。McLoughlin & Lee (2011) は、ソーシャル・メディアに関連する以下の「アフォーダンス」を示しています。(ただし彼らは Web 2.0 という用語を使っています。)
- つながりと社会的関係
- 協調的な情報の発見と共有
- コンテンツの作成
- 知識と情報の集約やコンテンツの修正
しかし、ソーシャル・メディアに独自の教育的特徴をもっと直接的に示しておく必要があるでしょう。
7.6.3 表現面での特性
ソーシャル・メディアでは次のようなことができます。
- 自主的に組織化される学習者グループ内でのマルチメディアによるコミュニケーション。
- ネット接続さえあればインターネット上でいつでもどこでも利用できる、リッチなマルチメディア・コンテンツへのアクセス。
- マルチメディア素材を学習者自身が作ること。
- 「閉ざされた」コースや教育機関の枠を超えて学習を拡大する機会。
7.6.4 スキル開発の観点から
ソーシャル・メディアが教育的な枠組みとして上手く設計されている場合、次のような能力の上達が見込まれます。(それぞれをクリックして例をみてみましょう。)
- デジタル・リテラシー
- 独立した自律的な学習
- コラボレーション/協働学習/チームワーク
- グローバル市民としての国際化/成長
- ネットワーキングおよびその他の個人間についてのスキル
- 知識管理
- 特定の文脈における意思決定 (例:緊急事態管理、法律の施行)
7.6.5 ソーシャル・メディアの長所と短所
ソーシャル・メディアの長所には以下のようなものがあります。
- デジタル時代に必要とされる重要なスキルの一部を身につけるためには非常に役に立つでしょう。
- ソーシャル・メディアを使うことで、教員は事例やプロジェクトに基づいたオンラインのグループ・ワークを設定することができます。一方、学生は携帯電話や iPad などでソーシャル・メディアを使い、現場でデータを収集することができます。
- 学習者は個別またはグループで、マルチメディアによる課題を投稿することができます。
- 評価済みの課題を、学習者が自分の個人学習環境や eポートフォリオに追加しておくことで、就職活動や大学院進学にも役立てることができます。
- 第5章の結合主義者の MOOC で述べたように、学習者は自らの学習を、より細かく制御できます。
- ブログや Wiki を使うとコースや学習を世界中に公開できるので、より豊かで、より広い視野を伴った学習にすることができます。
しかし多くの学習者は、少なくとも学習の初期段階では独立した学習者ではありません (Candy, 1991を参照)。多くの学習者は、最初から一人で学習課題をこなすことができるほどのスキルも自信も持ち合わせていません (Moore and Thompson, 1990)。彼らには構造化された支援や、学習のためのコンテンツ選び、そして学習成果の単位認定が必要です。たとえ学習者が自らの学習を細かく制御できる新しいツールが登場したとしても、それらは必ずしも構造化された受講を不要にさせるわけではありません。しかし学習者が独立して学習できるようになるために必要なスキルは教えることができます (Moore, 1973、Marshall and Rowland, 1993)。ソーシャル・メディアは学習のための方法をより効果的に学習することができますが、それでも多くの事例において、最初の構造化の場面での利用は限定的です。
ソーシャル・メディアの利用は品質的に避けられない問題を提起します。信頼できる正確かつ典拠の確かな情報と、不正確で偏った根拠のない情報の間を自由に行き来できる場合、どのように学習者はこれらを区別したら良いのでしょうか。誰もがあらゆる事柄について一つの考えを持っている時、専門家の意見や知識が意味するものは何でしょうか。Andrew Keen (2007) が述べているように「私たちは専門家の専制政治を馬鹿者の専制政治に置き換えつつあります。」全ての情報は同じというわけではなく、ましてや全ての意見が一致しているわけでもありません。
これらはデジタル時代における重要な課題ですが、課題の一部として存在しているだけでなく、ソーシャル・メディア自身がその解決策の一部になりうる可能性があります。教員は意識的にソーシャル・メディアを使いながら、ソーシャル・メディア自体における知識管理や、責任を持った利用意識を育てることができます。しかしこのような方法で知識やスキルを身につけさせるためには、教員による支援が必要となるでしょう。多くの学習者は学習の中で体系的な理解と指導を求めます。そしてそれを提供するのは教員の責任です。このような理由から、まずは教員による全権的支配と、小説『蝿の王』で砂漠の島を自由に歩き回っているような無秩序な子どもたちとの、ちょうど真ん中を目指す必要があるのです。 (Golding, 1954) ソーシャル・メディアはこのような中間地点になるのでしょう。しかし私たち教員はテクノロジーの選択と利用について、明確な教育理念を持っていなければなりません。
ソーシャル・メディアの詳細については、セクション8.8を参照してください。
アクティビティー7.6 ソーシャル・メディアに独特な教育的特徴を見極める
1. あなたが教えているコースの中から1つ選んでみましょう。そしてソーシャル・メディアをどのように利用できるか、分析してみましょう。特に:
- ソーシャル・メディアによって得られる新たな学習成果には何があるでしょうか。
- ソーシャル・メディアをコースに追加すること、あるいはソーシャル・メディア中心に設計し直すことによって、コースは良くなるでしょうか。
2. 私はソーシャル・メディアに独特な教育的特徴を表層的にまとめてみました。この章で網羅しきれていないものを何か思いつきますか。
3. この章は、学生自身が自らの機器を持ち込むことについてのあなたの見解にどのような影響を与えますか。
4. あなたは(それでも)教育におけるソーシャル・メディアの価値について懐疑的ですか。マイナス面として捉えていますか。
参考文献
Bates, T. (2011) ‘Understanding Web 2.0 and Its Implications for e-Learning’ in Lee, M. and McCoughlin, C. (eds.) Web 2.0-Based E-Learning Hershey NY: Information Science Reference
Candy, P. (1991) Self-direction for lifelong learning San Francisco: Jossey-Bass
Golding, W. (1954) The Lord of the Flies London: Faber and Faber
Keen, A. (2007) The Cult of the Amateur: How Today’s Internet is Killing our Culture New York/London: Doubleday
Lee, M. and McCoughlin, C. (eds.) Web 2.0-Based E-Learning Hershey NY: Information Science Reference
Marshall, L and Rowland, F. (1993) A Guide to learning independently Buckingham UK: Open University Press
McCoughlin, C. and Lee, M. (2011) ‘Pedagogy 2.0: Critical Challenges and Responses to Web 2.0 and Social Software in Tertiary Teaching’, in Lee, M. and McCoughlin, C. (eds.) Web 2.0-Based E-Learning Hershey NY: Information Science Reference
Moore, M. and Thompson, M. (1990) The Effects of Distance Education: A Summary of the Literature University Park, PA: American Center for Distance Education, Pennsylvania State University