8.7 組織の問題
8.7.1 テクノロジーを用いた教育に対する機関が準備すべきこと
教員のメディア選択に影響を与える問題として、次のものも重要です。
- 教育機関が教育活動を組織する方法
- 既に導入されている教育サービスと技術サービス
- 所属機関が提供しているメディアやテクノロジーの利用に対する支援
もしも教育機関が毎日決まった数の授業時間と、物理的な教室の利用でのやり取りを中心に組織されている場合、教員は主に教室での対面型授業に集中しがちになるでしょう。8.1節でMackenzie の次の言葉を引用しました。「教員は常に使えるものを最大限に活用しているのだが、これは私たちの仕事である。教員はやりくりするものなのだ。昔から教員は使えるものを最大限に活用してきたが、それは私たちが取り組まなければならないことである。教員はやりくりするものである。」その逆も同様に成り立ちます。もしも学校や大学が特定のテクノロジーをサポートしていない場合は、ほぼ当然のことながら教員がそのテクノロジーを利用することはないでしょう。たとえ学習管理システムや動画制作設備のようなテクノロジーが導入されていても、教員がその利用法や可能性について不慣れである、あるいはそれが目標とされていない場合は、十分に活用されないか、全く利用されません。
規模の大きな教育でメディアとテクノロジーを導入し、上手くいっている機関のほとんどでは、教職員に対する専門的サポートの必要性が認識されており、インストラクショナル・デザインの専門家や、メディア・デザイナー、ITサポート・スタッフによる教育や学習へのサポートが用意されています。中には、革新的な教育プロジェクトに対して資金提供も行なっている機関もあります。
テクノロジーを利用するということは、それを効率よく活用するために、教育支援や技術支援のサービスを再編成し再構築する必要があることを意味します。非常によく見られるのは、テクノロジーを既存の構造や物事のやり方にただ追加するだけという事例です。組織再編や再構築は、短期的には破壊的で費用がかかりますが、通常、テクノロジー利用型の教育を成功裏に実施するためには不可欠です。(高等教育におけるテクノロジー利用をサポートする管理戦略の詳細については Bates & Sangrà, 2011を、また、eラーニングに向けた機関の準備を評価する方法については Marshall, 2007 を参照してください。)
教育機関の習性として、最小限の組織的な変更で導入できるテクノロジーの方が好まれるというバイアスがよく見られます。たとえ、それが学習に最大の影響を与えうるテクノロジーではなかったとしてもです。このような組織的な課題は非常に困難であり、多くの場合、新しいテクノロジーの導入に時間がかかる主な理由となっています。
8.7.2 専門家と協力する
教育や学習にメディアを利用した経験がある人でも、この章で説明するようなメディアを作成するときは、メディア制作の専門家と協力するのが賢明でしょう(例外としてはソーシャル・メディアが考えられます)。実際、あまりに多くの作業を行なってしまう前に、どのメディアが最適である可能性が高いかを判断するためにも、インストラクショナル・デザイナーと協力することは、不可欠ではないとしても、たいていは有用です。テクノロジーの選択で重要なのは、まず教育目標が先にあり、それに基づいた決定をすることです。特定のメディアやテクノロジーを念頭に置いて検討を始めるのはよくありません。
専門家と協力する理由はいくつかあります。
- 彼らは当該のテクノロジーを理解しているため、あなた一人で行うよりも速く優れたものを開発することが可能になります。
- 「三人寄れば文殊の知恵」です。共同作業することで、メディアの利用法に関して、より新しく優れた着想につながるかもしれません。
- インストラクショナル・デザイナーやメディア制作の専門家は、たいていの場合、メディア制作のプロジェクト管理や予算編成に精通しているので、教材を期日までに予算内で制作することができます。このことが重要なのは、教員はややもするとメディア制作に没頭し、必要以上に多くの時間をかけてしまうからです。「三人寄れば文殊の知恵」です:共同作業することで、メディアの利用法について新しい、より優れた着想につながります。
ここで重要なポイントは、現在では教員自身でもそれなりに質の良い音声や動画を制作することも可能ですが、メディア制作の専門家からの助言は常に役に立つということです。
8.7.3 検討すべき問題点
- 教育のためにメディアを選択し利用する上で、所属機関から、どのようなサポートをどの程度まで得ることができますか。支援を得るのは簡単ですか。そのサポートはどのくらい質の良いものですか。サポート・スタッフは、私が必要とするメディアについての専門技術を持っていますか。彼らは新しいテクノロジーの教育利用について最新の知識を持っていますか。
- 1学期の間、私が新しいコースの設計や既存のコースの修正に専念するのに十分な資金や、ティーチング・アシスタントに支払う賃金として利用できそうな予算はありますか。メディア制作のための予算はありますか。
- 学習管理システムや講義録画システムの利用などの「標準的な」テクノロジーや、慣行、手続きに、どの程度まで従う必要がありますか。あるいは何か新しいものを試すことが奨励されており、そのサポートもしてもらえますか。
- 全てをゼロから作るのではなく、自分の授業で使える適切なメディア素材が既に利用可能になっていないでしょうか。例えば、そのような素材を見つけたり、著作権の問題に対応したりする際、図書館はサポートしてくれますか。
この問題点の一つ一つについて、答えが否定的である場合は、メディアやテクノロジー利用の目標をかなり控えめに設定しておくことをお勧めします。とはいえ喜ばしいことに Web サイトやブログ、Wiki、ポッドキャスト、簡単な動画制作まで、メディアの自作や管理はどんどん容易になっています。さらに、もし機会があるならの話ですが、学習者自身が学習リソースの作成に参加することや、手伝うスキルがある場合や、興味を持っていることもよくあります。そして何よりも第10章で見るように、教育用途でなら無料で使える、本当によくできた教育用メディアが増えてきています。
参考文献
Bates, A. and Sangrà, A. (2011) Managing Technology in Higher Education San Francisco: Jossey-Bass/John Wiley and Co.
Marshall, S. (2007). eMM Version Two Process Assessment Workbook Version 2.3.Wellington NZ: Victoria University of Wellington