8.8 ネットワーキング
8.8.1 コース設計におけるネットワーキングの影響
これは、以前のバージョンの SECTIONS モデルからの変更点です。もともと「N」は「新奇性 (Novelty)」を表していました。しかし以前、「新奇性」に関して提起した問題は8.3節の「使いやすさ」に含まれています。そこで、ソーシャル・メディアの最近の動向も考慮して、「新奇性」を「ネットワーキング(Networking)」に置き換えることにしました。
本質的には、メディア選択の際、検討が必要になるのは以下の問題です。このことはますます重要になってきています。
- 学習者がコースの枠を超えて他の人々と関わりをもてるようにすることは、どのくらい重要でしょうか。他の人々とは、例えば教科の専門家や、その分野を本職にしている研究者、コミュニティの関係者などです。当該コースは、あるいは学生の学習は、このような外部とのつながりから恩恵を得られるでしょうか。
この問いに対する答えが肯定的なら、次にどのメディアを使うかを検討します。特に、ブログや Wiki、Facebook、LinkedIn、あるいは Google Hangout などのソーシャル・メディアの利用を勧めます。
ネットワーキングをコース設計に組み込む上で、ソーシャル・メディアは少なくとも次の5つの利用法に影響を与えます。
- 単位認定のあるオンラインのソフトウェアやテクノロジーへの拡張として
- ソーシャル・メディアのみを利用する単位制コースの設計
- 学習者が作成する学習素材
- 自己管理型学習グループ
- 教員主導のオープンな教育用素材
8.8.2「標準的な」学習用テクノロジーの補完として
一部の教員は外部とのネットワークのために、ソーシャル・メディアを学習管理システム (LMS) などの「標準的な」教育機関用のテクノロジーと組み合わせて利用しています。 LMS はパスワードで保護され、教員と登録された学生しか利用できないため、コース内で「安全に」コミュニケーションを行うことができます。ソーシャル・メディアを利用すると、外部世界とのつながりが可能になります。それでも投稿は、コース・ブログや Wiki の管理者が監視・承認することでふるいにかけることができます。
例えば中東の政治に関するコースでは、現在の出来事を取り上げ、それを当該コースの中心的なテーマや問題と直接関連づけることに焦点を当てた、内部のディスカッション・フォーラムを用意することができます。一方、学生は自らが管理する公開 Wiki に中東の学者や学生、あるいは一般の誰からでも、書き込みを促すこともあるかもしれません。結果として外部からのコメントが最終的に、閉鎖的に運用されているクラスのディスカッション・フォーラムに取り込まれたり、逆にフォーラムで議論された内容が外部で用いられたりすることになるかもしれません。
8.8.3 単位制コースにおけるソーシャル・メディアの単独利用
他方で、学習管理システムや講義録画システムなどの「標準的」な機関向けテクノロジーから全面的に離れ、コース全体の管理にソーシャル・メディアを使う教員も出てきています。例えば、ブリティッシュ・コロンビア大学 (UBC) の ETEC 522 のコースでは、教員や学生によるコースへの投稿に WordPress や YouTube の動画、ポッドキャストが使われています。実際、このコースにおけるソーシャル・メディアの選択は、コースの中心的な内容や、ソーシャル・メディアの新たな進化に伴って、毎年変わります。UBC の Jon Beasley-Murray は、ラテン・アメリカ文学に関して、学生にレベルの高い Wikipedia の特集記事のエントリーを作成させる活動を中心とした一つのコースを構築しました。(ラテン・アメリカ文学WikiProject – Beasley-Murray, 2008を参照)
8.8.4 学生が作成する学習素材
特に興味深い展開として、学生自身がソーシャル・メディアを用いて、他の学生の支援のための素材を作成するという用途があります。例えば UBC の数学科の大学院生は、数学の試験や教育資料 Math Exam/Education Resources Wiki を作成しました。そこでは過去の試験問題の完全かつ詳細な解答集、動画による講義、トピックごとの解説が提供されています。このようなサイトは UBC の学生だけでなく、学習の手助けが必要な人なら誰でも利用できます。
8.8.5 自己管理型学習グループ
cMOOC は自己管理型学習グループの分かりやすい例です。Webセミナー、ブログ、Wiki などのソーシャル・メディアが使われています。
8.8.6 教員主導のオープンな教育用素材
教員が自分の知識を使って、誰もが利用できる教材を作成する際、特に YouTube の利用がますます一般的になってきました。最も良い例はやはり カーン・アカデミー ですが、xMOOCs をはじめとして、他にもたくさんの例があります。
繰り返しになりますが、授業を「公開する」という決定は、テクノロジーに関する決定であると同時に、学問観や価値観に関わる決定でもありますが、この学問観を奨励し可能にするものとして、現在ではテクノロジーが利用できます。
8.8.7 検討すべき問題点
- 学習者が教科の専門家や、その分野を本職にしている研究者、コミュニティの関係者といった他の人々と、コースを超えて交流できるようにすることは、どの程度重要でしょうか。このような外部とのつながりは、当該コースあるいは学生の学習に恩恵となるでしょうか。
- これが重要だとしたら、実施するのに最良の方法は何でしょうか。ソーシャル・メディアのみを利用すべきでしょうか。コース向けの他の標準的なテクノロジーと統合すべきでしょうか。設計や管理の責任は学習者に任せるべきでしょうか。
参考文献
Beasly-Murray, J. (2008) Was introducing Wikipedia to the classroom an act of madness leading only to mayhem if not murder? Wikipedia, March 18