シナリオD:歴史的思考の育成

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図: 4 D 北京の歴史の中で1964年から2014年の間、学生たちが使っていた人工遺物<br /> 画像: © zonaeuropa.com
図D 北京の歴史の中で1964年から2014年の間、学生たちが使っていた人工遺物
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ラルフ・グッドイヤーはアメリカ中部の公立の研究大学に勤める歴史の教授である。彼は72名の学部生が受講しているHIST 305「歴史的研究方法論」の授業を担当している。最初の3週間、以下のような話題・内容で15分のビデオ講義を行なっていた。

  • 歴史家たちが使う様々な素材について。(例えば古代の書物、出生記録・結婚・死などを含む観察的記録、目撃者による証言、絵画・写真などの人工遺物、廃墟などの自然遺物など。)
  • 歴史的分析によって書かれやすいテーマ。
  • 歴史家たちが使う一部の方法論、例えば口述記録・分析・解釈。
  • 歴史を説明する際の3つの理論的立場(客観主義・マルクス主義・ポストモダン主義)

学生たちはラルフが示したスケジュールにしたがって動画をダウンロードした。最初の3週間で学生たちが課されていたのは次のような内容である。

1) 週に2回ずつ1時間のクラスに出席し、事前に視聴した動画に基づくテーマでの議論を行うこと。

2) 教授が関連する話題を投稿するので、大学の学習管理システム(LMS)のディスカッション・フォーラムで、オンラインのディスカッションを行うこと。

3) 成績認定のため、それぞれの話題について少なくとも1回、オンラインで有益な議論を行うこと。

4) よく知られている歴史的研究方法論に関する教科書を読むこと。

4週目、ラルフは学生たちを6名ずつ、12のグループに分けた。そしてそれぞれにアメリカ国外のいずれかの都市の過去50年ほどの歴史について調査するよう指示した。学生たちは大学図書館の所蔵物はもちろん、オンライン素材による新聞記事、画像、調査報告書など、見つけた素材なら何でも含めて良いということにした。また、レポートをまとめる際、以下の条件に従うことを義務付けた。

  • 過去50年ほどの記録から特定のテーマを一つ取り上げ、そのテーマで口頭発表できるようにすること。
  • それぞれのレポートで出典を明らかにし、なぜその出典を選んだか、なぜ他のものを選ばなかったのかについて議論すること。
  • 講義で取り上げた3つの理論的立場の手法を比較すること。
  • 大学の学習管理システムにはこのコース専用の場所があるので、それぞれオンラインの eポートフォリオとして投稿すること。

学生たちは一連の作業を行うために5週間を与えられた。

最後の3週間では、それぞれのグループが口頭発表し、教室内とオンラインで補足説明・討論・質疑応答を行うことになっていた。教室内での口頭発表は録画され、後でオンライン上でも利用できるようになっていた。そして科目の最後では、学生たちが他のチームを評価することになっていた。ラルフはそれぞれの学生による評価を考慮しながら、理由を添えて点数を調整することにしていた。また、それぞれの学生にも、グループごとの点数と教室内やオンラインでの討論参加の度合いに基づいて個々人の成績をつけた。

ラルフは学生たちが仕上げた課題の品質の高さに対し、驚いた、そして満足しているとコメントした。「私が気に入ったのは、学生たちが歴史について学ぶのではなく「歴史的研究」を行なっていたことだよ。」

事実に基づきますが、若干の脚色を加えています。

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Copyright © 2020 『日本語版』, 2015 Anthony William (Tony) Batesの「デジタル時代の教育」は、特に断りのない限り、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利 4.0 国際 ライセンスに規定される著作権利用許諾条件。

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