2.3 客観主義と行動主義
2.3.1 客観主義的な認識論
客観主義者たちは、客観的で信頼できる事実、原理、理論が存在し、それらは発見、記述することができ、時空を超えて存在するというふうに考えます。また、客観主義では人が信じようと信じまいと、知性よりも外側に真実があると捉えています。例えば、物理の法則は常に一定であり、何か新たな「真実」を発見した時にだけ我々の知性が進化するかもしれないと考えます。
2.3.2 教育に対する客観主義的アプローチ
客観主義的な見方を信条とする教員は、授業の中で学ぶべき全体的な知識、すなわち事実、公式、専門用語、原理、理論などを提示しなければならないと考える傾向にあります。
そして、このような全体的な知識を効率的に学習者に伝えることに重点を置いています。講義や教科書は、権威がある、情報量は豊富で、系統立てられており、分かりやすいものでなければなりません。学習者に対しては、当該学問分野で指導的とされている認識論的な枠組に沿って、経験的に得られた証拠と仮説の検証に基づいて、与えられた知識を正確に理解し、再生し、あるいはそこに積み増していくことを要求します。授業における課題や試験は、学生自らが「正しい答え」を発見し、その根拠を示すことを要求するものとなります。独自の考え方や創造的な考え方も同様に必要ではありますが、客観主義的アプローチの枠内で、という制約が伴います。言い換えれば新たな知識の展開は、共有されている理論的な枠組の中で厳格な基準に則った、経験的な検証にかなうものでなければなりません。
「客観主義者」的な教員は、学ぶべき重要項目は何であるか、どのような順序でそれを学ぶか、どのような学習活動を行うか、学習者はどのように評価されるべきかといった判断において非常に大きな力を持っていると捉えます。
2.3.3 行動主義
行動主義は1920年代に初めて登場しましたが、多くの国、とりわけアメリカにおいて、教育および学習へのアプローチとして今なお優勢です。
行動主義心理学は、自然科学的な手法によって人間行動の研究をモデル化しようとする試みです。そして行動のうちでも直接、観察や測定できる側面に注目します。行動主義の核心にある考え方は、ある行動が反応として現れるのは機械的であり、常に同じ方法によって特定の刺激と結びついているということです。つまり、特定の刺激によって特定の反応が引き起こされるということです。さらに単純に説明するならば、反応とは、明るい光を当てられた目の中で虹彩が収縮するように、純粋に生理的な反射作用であるということです。
しかし人間の行動の大部分は、より複雑にできています。にもかかわらず行動主義的な立場の人たちは、ある特定の刺激(出来事)と、反応として起こる、ある特定の行為とのつながりが、たとえどのようなものであったとしても、報酬や懲罰を通じて強化することができるということを実験室の中で示してきました。
刺激と反応の間で形成されたつながりができるときは、これらの間でのつながりを強化するような適切な手段があるかどうかにかかっています。つながりが生まれるのは、ランダムな行動(つまり試行錯誤)に対して、その行動が行われた時に適切に強化が行われるかどうか次第なのです。
これがオペラント条件づけの本質にある考え方です。この理論を最も明確に示したのは Skinner (1968) でした。彼は、鳩が特定の望ましい反応をとったときに(最初はランダムでしょうが)例えば餌を与えるといったような適切な刺激を与えることで、非常に複雑な行動であっても、訓練で身につけさせることができることを示しました。また彼は、様々な刺激の介在がなくても、遠隔刺激を複雑に組み合わせた行動に結び付けていくことで、一連の反応を教え込ませられることを発見しました。さらには、不適切な学習行動や、既に行われていた学習行動も、それを打ち消す方向への強化によって消滅させることができる可能性があることを指摘しました。人の行動の強化は非常に単純な方法、例えば活動に対して即座にフィードバックを与えること、すなわち選択式テストの場合、その場で正しい答えを与えるようにするなどによって行うことができます。
YouTubeでは、1954年に撮影されたB.F.スキナー自身が発明したティーチング・マシンを説明する5分間の大変興味深い映像をこちらで見ることができます。
教育に対する行動主義的アプローチの根底にあるのは、学習は普遍的な原理によって支配されており、この原理は学習者側の意識的な制御から独立しているという考え方です。行動主義の考えに染まっている人たちは、人間の活動を観察する際に、高度な客観性を保とうとし、一般的には、感情、態度あるいは意識のような、計測できないものを観察しようとしません。むしろ人間の行動は予測可能であり、コントロールできるものと捉えているのです。つまり行動主義は非常に客観主義的な認識論の立場から枝分かれしたものなのです。
スキナーの学習理論は、ティーチング・マシン、測定可能な学習目標、コンピュータ支援教育、多肢選択式テストが発展する基盤となった理論的根拠を与えてくれています。行動主義の影響は今でも強力で、会社、軍隊における訓練や、一部の科学、工学、医学における訓練で利用されています。それが特に価値をもち、一般的な手法となっている領域には、事実についての勉強、機械的に丸暗記しなければならない九九や、脳機能障害のために認知能力が制限された大人や子供への対応、商工業における一定で個別の判断を要しない基準や手続に関するコンプライアンスなどが挙げられます。
行動主義は、学習を推進させるための報酬や懲罰を強調したり、あらかじめ学習成果を定義し測定可能なものとすることから、多くの親、政治家、さらに学習の自動化に関心をもつコンピュータ科学者の間で受けの良い、学習概念の基盤となりました。ですからテクノロジーを、とりわけコンピュータ支援教育を、学習に対する行動主義的アプローチと密接な関係があると捉える傾向が近年まで続いているとしていても、さほどの驚きはありません。もっともセクション4.4で見る通り、コンピュータは必ずしも行動主義的な方法で用いられなければならないというものではないのですが。
最後に、確かに行動主義は教育に対する「客観主義的な」手法ですが、それが「客観的に」教育を行う唯一の方法というわけではありません。例えば問題解決型学習では、知識と学習について高度に客観的な手法を選ぶこともできるでしょう。
アクティビティー2.3 行動主義の限界を明確にする
- 行動主義的な手法によって「教育」し、あるいは学習することがもっとも適切なのは、どのような知識領域でしょうか。
- 行動主義的な手法では適切な教育を行うことができないのは、どのような知識領域でしょうか。
- それぞれの理由についてあなたの意見を述べてください。
参考文献
Skinner, B. (1968) The Technology of Teaching, 1968. New York: Appleton-Century-Crofts