5.2 MOOC とは何か

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© Giulia Forsythe, 2012 and JISC, 2012
図5.2 MOOCを理解する(© Giulia Forsythe, 2012 and JISC, 2012)

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5.2.1 MOOCs は大規模な混乱を招いているか

近年、教育の世界で MOOCs (Massive Open Online Courses) の発展ほど議論を呼んでいるものはおそらくないでしょう。作家の Thomas Friedman は、2013年に New York Times 上で次のように書いています。

高等教育を改めて考えてみると、MOOCs ほど可能性があるものは他には見つからないだろう。アメリカは比較的少額のお金を使えば、エジプトの村に場所を確保して25台程度のコンピュータを設置して高速の衛星インターネット接続を導入し、地元の教員をファシリテーターとして雇い、オンライン講義を受講したいエジプト人を誰でも招くことができるのだ。世界最高レベルの教授による授業をアラビア語の字幕つきで。修了証を発行するためにほんのわずかなお金を支払うだけで、世界中の最高水準の教授による最高レベルのオンライン講義を受講して、全ての学習者が独自の学位を作り出せる日が間もなくやってくる。MOOCs は教え方、学び方、そして雇用に至る道筋を変えてしまうだろう。

他の多くの人々も、Clayton Christensen (2010) が教育の世界を激変させると論じたように、MOOCs を破壊的なテクノロジーの一例とみなしています。その一方で、MOOCs はそれほど大した問題ではなく、教育コンテンツを配信するための新しい仕組みにすぎず、教育の根幹には影響を及ぼさないと論じている人もいます。特に、デジタル時代に必要とされる種類の学びには至らないという主張です。

MOOCs は、教育の大改革に繋がると考えられる一方で、新しいテクノロジーが現れる時に、特にアメリカで頻繁に起こるような、度を過ぎた単なる誇張の一例にすぎないとも考えられるのです。私から見れば、MOOCs は重要な意味を持つ進展であると言えますが、同時にデジタル時代に必要な知識やスキルの育成を行なうには難しい限界もあると言えるように思います。

5.2.2 主要な特徴

これから見ていくように MOOCs は教育設計の守備範囲をますます拡大しつつある用語なのですが、共通する特徴を持っています。

5.2.2.1 大規模であること

Coursera によると、設立された2011年以降の4年間で、最大規模の講座では1,200万人以上が登録し、24万人が受講したそうです。最も初期の頃の MOOCs に見られた何十万という膨大な数の登録者数は、その後の MOOCs では必ずしも同様だったわけではありませんが、それでもかなりの人数です。例えば2013年にブリティッシュ・コロンビア大学が Coursera を通じて複数の MOOCs 講座を提供したところ、最初の募集でそれぞれの講座に 25,000人から19万人が登録しています。(Engle, 2014)

しかし、このような実際の数値よりも重要なのは、MOOCs は拡張可能性が無限大であるということです。MOOCs で講座を提供している教育機関が、登録者を新たに1人追加する限界費用はほぼゼロですから、技術的には最終的な人数制限を設ける必要がないのです。とは言え、現実にはこの理屈どおりにはいきません。登録者数の増加に比例して中核となるテクノロジーやバックアップ、通信帯域といった費用が増加するので、以下で見るように MOOCs を提供する組織に連鎖的な費用が発生する可能性があります。しかし、膨大な登録者数の中では新たに1人を追加することで発生する費用が極めて小さいため、事実上は無視できるのです。おそらく拡張可能性は MOOCs の特徴の中でも、とりわけ政府機関からの注目が非常に大きい部分ですが、忘れてはならないのは、これはテレビやラジオにも備わっている特徴であり、MOOCs だけが持つものではありません。

5.2.2.2 オープンであること

MOOCs への参加者に必要なものはコンピュータやモバイル機器、そしてインターネットへのアクセスだけです。しかし、ビデオ配信を利用する xMOOCs ではブロードバンド通信が最も重要であり、おそらく cMOOCs にも望ましいでしょう。しかし利用者数の増加に比例して認定バッジや修了証につながる評価に手数料を要する MOOCs が増えつつあります。少なくとも初期の頃は、参加者は無料で利用できたのですが。

重要な点として、Coursera を通じて配信されている MOOCs の講座は完全にはオープンではないという点があります。(教育において何が「オープンであること」を構成するのかについては第10章を参照。)Coursera は教材に対する権利を有しています。そのため Coursera の許可なく別の目的で利用したり再利用することはできません。そして講座が終わるとき、Coursera のサイトから削除される可能性もあります。また Coursera のプラットフォームに MOOCs 講座を開ける教育機関であるかどうかは同社が決定することから、教育機関にとっては Coursera がオープンに利用できるというわけではないのです。一方で edX はオープンソースなプラットフォームであり、edX に参加している教育機関であればどこでも、教材の権利をどうするかの扱い方を自分たちで決め、独自の MOOCs 講座を提供することができます。cMOOCs は一般的に完全にオープンですが、参加者個人が教材の全てとは言わないまでも多くを作っているため、各個人が教材の権利を有しているのかどうか、そして教材がどれくらいの期間利用できる状態にあるのか、いつでも明確なわけではありません。

また MOOCs 以外のオンライン教材にもインターネット上でオープンかつ無料で利用できるものが多く、MOOCs 教材よりも再利用しやすい形態であることも付記されるべきでしょう(第10章を参照)。

5.2.2.3 オンラインであること

少なくとも MOOCs は本来の意味からも全てオンラインで提供されるものですが、教育機関ではキャンパス内でのブレンド型による学習で MOOCs の教材を使えるよう、権利保有者と交渉を行なっている事例がますます増えています。言い換えれば、キャンパス型の教育機関が MOOCs を使う学習者の支援を、授業を通じて教員が行なっています。例えばサンノゼ州立大学に通う学生は、Udacity の MOOCs の教材を使い、講義、課題図書、試験を利用しながら学習しました。教員は授業時間を使い、少人数での活動やプロジェクト学習、試験によって、進捗状況を確認したのです (Collins, 2013)。MOOCs の様々な活用方法については、セクション5.3でさらに詳細に論じます。

繰り返しになりますが、講座をオンラインで提供することは MOOCs に固有の特徴ではありません。アメリカだけで700万人以上の学生が通常の学位プログラムの一環として、オンラインで受講して単位を取得しているのです。

5.2.2.4 まとまった講座であること

MOOCs を他の大多数のオープンな教材と区別している特徴は、MOOCs で提供される内容は、一つにまとまった講座として構成されている点です。

しかし受講者にとっては、このことは必ずしも明確ではありません。MOOCs の多くでは講座を首尾よく終えた受講生に修了証や電子バッジを発行していますが、今までのところ、このような証明が MOOCs を提供している教育機関であっても、入学選考の際に有利になったり、単位認定されたことはありません。

5.2.3 まとめ

MOOCs が備える全ての主要な特徴は、MOOCs 以外の形態にも存在していることが分かります。しかし MOOCs に独特なのは4つの主要な特徴の組み合わせであり、とりわけ MOOCs は大規模で運用することができ、参加者にオープンかつ無料で提供されているという事実にあるのです。

参考文献

Christensen, C. (2010) Disrupting Class, Expanded Edition: How Disruptive Innovation Will Change the Way the World Learns New York: McGraw-Hill

Collins, E. (2013) SJSU Plus Augmented Online Learning Environment Pilot Project Report San Jose CA: San Jose State University

Engle, W. (2104) UBC MOOC Pilot: Design and Delivery Vancouver BC: University of British Columbia

Friedman, T. (2013) Revolution Hits the Universities New York Times, January 26

ライセンス

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Copyright © 2020 『日本語版』, 2015 Anthony William (Tony) Batesの「デジタル時代の教育」は、特に断りのない限り、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利 4.0 国際 ライセンスに規定される著作権利用許諾条件。

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