6.1 教育と学習のためのテクノロジーの選択:その挑戦
電子工学の技術者であっても、この写真の中で使われているテクノロジーの全てを列挙せよと言われたら、きっと困ってしまうことでしょう。いずれも2014年の時点での北米の家庭娯楽用のシステムで使われているものです。その答えはテクノロジーが何を意味するのかによります。
- ハードウェア? (例えば、TVモニタ)
- ソフトウェア? (例えば、オーディオビジュアル/デジタル変換器)
- ネットワーク? (例えばインターネット、衛星)
- サービス? (例えばテレビ、ツイッター)
答えはもちろんこれら全てです。そして、これらを統合できる全てのシステムです。実際のところ、たった1枚の写真の中で使われているテクノロジーと言っても非常に多く、列挙しきれません。私たちはデジタル時代に浸かりきっています。教育分野は比較的、テクノロジーの導入では遅れていると言えますが、それでも例外ではありません。なぜなら学習も人間にとっては基本的な活動であり、テクノロジーが介入してくることとの相性は良いのです。場合によっては非常に良いとも言えるでしょう。さて、テクノロジーが浸透している時代では、教育の世界ではテクノロジーはどのような役割を果たすでしょうか。どのような長所(あるいはアフォーダンス)があり、そして何がテクノロジーの限界点なのでしょうか。何のために、どのようなテクノロジーを使うべきなのでしょうか。
以下の各章では、教育の文脈において理論的根拠と実用性の両面に基づいた、意思決定のためのフレームワークやモデルを提供することを目的とします。
これは簡単なことではありません。柔軟であるけれども、背景となる非常に多くの要因を、十分に扱えるようなモデルを与えるためには、深いレベルでの哲学的・技術的思考、そして実際に挑戦してみること必要です。例えば、教育に関する理論や信念は、様々なテクノロジーの選択と利用に強く影響を与えることでしょう。技術的な側面では、テクノロジーを分類することがますます困難になっていくでしょう。テクノロジーの進化があまりにも速いからというわけではありません。テクノロジーには異なる多くの強みやアフォーダンスがあり、どのような背景で使われるかによっても変化していくのです。実用的な側面として、単に教育におけるテクノロジーの特徴だけに注目するというのは間違いでしょう。他にも社会的や組織的な面、コストや利用のしやすさについても考えなければなりません。やはり教育や学習のためのテクノロジーの選択と利用は、その背景、価値、信念を軸に据えるのであれば、厳密な科学的根拠や理論の下で進めて行くべきなのです。つまり、たった1つの「最善の」フレームワークやモデルというものは存在しないでしょう。その一方で、急速に進化するテクノロジーを考えた場合、教員たちはテクノロジーによる決定(MOOCs?他の何か?)に対して開かれています。あるいは、このような選択や利用へ導いてくれるモデルがなければ、完全に教育からテクノロジーを締め出してしまうこともできるでしょう。
実際、教育のためのテクノロジーに関しては、答えを出さなければならない基本的な問いがまだあるのです。例えば、
- 対面授業、そしてオンライン授業ではテクノロジーがどのように使われることが最良なのか、そしてどのような背景なのか。
- 人間の教員の役割は何か。そして人間の教員はテクノロジーによって置き換えることができるのか、置き換えるべきなのか、置き換えられてしまうのか。
このような問いは、のちにこの本で正面から取り組むべき難問です。しかし学生たちに教えなければならないカリキュラムに直面している教員の姿を考慮するならば、そして学習方法を探している学習者の姿を考慮するならば、あるテクノロジーを使うべきかどうか、それとも別のテクノロジーを使うべきかどうか、何らかの実用的なガイドが必要となることでしょう。この章と次の章では、学習体験が最適化されるように、このような問いに効果的かつ実践的に答えることができるモデルやフレームワークを示します。
ではここで、教育や学習のためのテクノロジーの選択について、あなたの今の考えをまとめてみましょう。
アクティビティー6.1 どのテクノロジーを指導の際に使うか、現状を踏まえた意思決定はどのように行いますか。
- どのテクノロジーを指導の際に使うか、現時点ではどのように決めたら良いでしょうか。教室にある機器を使いますか。IT支援員の人に尋ねますか。このような意思決定に際し、何か理論や原則を持っていますか。
- これは簡単に答えられる質問でしょうか。それはなぜですか。
- 図6.1でテクノロジーはいくつ使われていますか。列挙してみましょう。(私の答えは巻末にあります)