第12章 デジタル時代の教員支援
この章の目的
この章を読み終えると、以下のことができるようになります。
- 専門的な能力開発と教育の訓練の必要性を認識し、あなた自身に何が必要か定義すること。
- 学習テクノロジー支援システムの役割と重要性を認識すること。
- 学生数の多いクラスを教える際のチーム・アプローチを設計すること。
- デジタル時代の教育と学習をサポートする組織的戦略の必要性を理解すること。
- クオリティーの高い教育が適切にサポートされるように、あなたの所属組織内での変化を強く求めること。
この章で扱う内容
- 12.1 デジタル時代の教育を真面目に考える
- 12.2 デジタル時代の教員の能力開発と研修
- 12.3 学習テクノロジーとその支援
- 12.4 雇用条件
- 12.5 チーム・ティーチング
- 12.6 デジタル時代に教えるための組織的戦略
- 12.7 未来を作る
- シナリオH: インフルエンザの流行を止める
加えて、この章には以下のアクティビティーが含まれています。
- アクティビティー12.2 プロとしての訓練の必要性を明確にする
- アクティビティー12.5 チーム・アプローチを設計する
- アクティビティー12.6 教育と学習を支援するための組織的戦略を開発する
- アクティビティー12.7 あなたの教育のための未来のシナリオを作る
重要ポイント (この本全体を通して)
- 雇用者、財界、学習者自身、そして多くの教育者から、学習者はデジタル時代に必要とする知識やスキルを伸ばすべきだという外圧があり、それは以前にも増して強くなっています。
- 全ての「コンテンツ」がますます簡単にインターネット上で手に入るようになるでしょう。このようなデジタル時代に学生が必要な知識やスキルを得るために必要な専門知識として以下のようなものが挙げられます。
- 知識管理(知識を発見し、評価し、適切に応用する能力)
- IT の知識とスキル
- SNS の適切な利用を含めた対人コミュニケーション・スキル
- 自立した生涯学習スキル
- 様々な知的スキル、具体的には以下のようなものが含まれます。
- 知識構築
- 推論
- 批判的分析
- 問題解決
- 創造性
- 協働的学習とチーム・ワーク
- マルチ・タスクと柔軟性
- これらはどの教科領域にも関係するスキルであり、その領域に組み込まれる必要があります。このようなスキルがあると、学生は VUCA (変わりやすく不確実で、複雑かつ曖昧な)世界により対応できるでしょう。
- そのような知識とスキルを身につけるために、教員は明確な学習成果を設定し、これらの発達をサポートする教授法を選択する必要があります。全てのスキルは習得するのに練習とフィードバックが必要なので、学習者は練習のための十分な機会が与えられなければなりません。つまり、これは情報伝達型のモデルから、学生参加型で学習者中心の教育モデルへと移行する必要があります。コンテンツの習得と同様にスキルを測る新しい評価方法も必要となってきます。
- 学生の多様性が増しています。フルタイムで主にキャンパスで学ぶ学習者から、既に高いレベルでの中等後教育を受けた生涯学習者、公教育から抜け落ちたために、やり直しの機会が必要な学習者まで様々です。新しいITにはいつでもどこでも学ぶことができる可能性があるため、より幅広い配信方法が必要です。キャンパス中心の教育、ブレンド型学習、ハイブリッド型学習、そして完全オンラインのコースや専攻プログラムがあり、さらに公式なものも非公式なものもあります。
- ブレンド型学習、ハイブリッド型学習、オンライン学習へ移行する動きや、学習テクノロジーがより広く活用されると、教員の選択肢は一層広がります。これらのテクノロジーをうまく利用するために、教員は様々なテクノロジーの強みや弱みを知っている必要があるだけでなく、どうしたら学生が最適に学べるかということを把握している必要があります。そのためには以下のことを知っておく必要があります。
- ティーチングとラーニングの研究
- 様々な知識概念に関する様々な学習理論(認識論)
- 様々な教授法とその長所と短所
- こうした基礎がないと、それぞれの教員が慣れ親しんだ唯一のモデル、つまり講義と議論が中心の教授法から離れるのは難しくなります。なぜなら、この教授法はデジタル時代に必要とされる知識やスキルを獲得するには限界があるからです。
- これは特に大学で深刻な課題です。ほとんどの西洋諸国では、大学で働くために教育の研修を積む必要もなければ、資格も必要ないからです。にもかかわらず教育は教授の最低40%もの時間を取ります。多くの兼任教員や任期制教員、非常勤講師はそれよりもさらに多くの時間を教育に割いています。そして大学教授ほどではありませんが、同じ課題、つまりベテランと言われる教員がデジタル時代に対応して教えるために必要な知識やスキルをどのように確保するかという課題を、中等教育以前の学校教員も抱えているのです。
- 教育機関はデジタル時代に必要とされる知識やスキルをうまく伸ばすこともできますが、阻害することもできるのです。以下のようなことを行う必要があります。
- デジタル時代に必要とされる知識やスキルを伸ばすのに必要な、新しいテクノロジーや教授法の適切な研修を、あらゆるレベルの教員が受けられるようにすること。
- 教員のために適切な学習テクノロジーの支援があること。
- 労働条件を整えること。特に、教員がデジタル時代に必要な知識とスキルを伸ばせるような方法で教えることのできる少人数クラスにすること。
- デジタル時代に必要な教育を支援する、実用的で一貫した組織的戦略を開発すること。
- 政府、教育機関、学習者自身が教育や学習で確実に成功するために取り組めることはかなりありますが、結局のところ責任、そしてある程度まで変える権限は、教員自身にあります。
- 世の中が将来必要とする学生を育てるのは、新しい教授法を開発する教員の想像力にかかっています。